ライターが選ぶ「2021年BLコミックBEST10」後編 キーワードは“年の差”と“ファンタジー”か?
第1位『いとおしき日々』(sono.N/メディアソフト)
『いとおしき日々』は、長年寄り添ってきた夫婦のアルバムをめくっているかのような感覚が味わる1冊だ。家庭教師だった真とその生徒だった和彦、10歳年が離れたふたりが惹かれ合い、歳を重ねるとともにますます愛を深めていく軌跡を描いている。
この作品も筆者が10位で紹介した『じじいの恋』同様、「高齢者BL」に含まれるだろう。他のBLではなかなか見ることのない、定年退職、墓の購入、遺言書作成などの人生後半に集中するであろうライフイベントが描かれるからだ。
また同作は日本で暮らす同性カップルがぶつかる、パートナーが入院しても状況を知ることすらできないといった現実にもある壁とそれに伴う選択を日常として描いていた。人生の分岐点の描写をあえて淡々と描くことで、「ふたりが一緒に生きてきた」という事実がより強調されている。
著者のsono.N氏は、同作について「王道的ハッピーエンドを目指していたらここまで行き着いてしまった」とカバーコメントで語っている。『いとおしき日々』は、王道の先に新たな道筋を切り開いてくれた。
今を生きるBLファンが作品に求めるもの
筆者が選んだBEST10を振り返ると、「年の差」を設定に組み込んでいるのが4作品、「ファンタジー」要素があるのが5作品あった。これは2021年の人気BL漫画の傾向とも共通していると思われる。
BLファンの口コミが多数集まる情報サイト「ちるちる」では今、「BLアワード2022」ノミネート作品を読者投票で選出している最中だ。そのため2021年のランキングにはまだまだ変動がある。しかし安定して上位にランクインしている作品を見ると、「年の差」や「ファンタジー」を題材に含む作品が揃っていた。
筆者は「BL作品のトレンドは“穏やかな日常×年の差”か? 『BLアワード2021』ランクイン作品を考察」という記事で、2020年に発売されたBL漫画の人気傾向として「年の差」を挙げた。「支え導き合う関係性に年は関係ない」という希望を描く作品の人気は継続しているようだ。
意外だったのは、昨年の「日常」とは真逆の「ファンタジー」の人気。「ちるちる」を運営する株式会社サンディアスは、2020年に日常を描く作品に人気が集まったのはコロナ禍の影響が大きかったのではないかと分析していた。筆者もこの分析に同感だ。
2021年もコロナ禍の影響はまだまだ続いている。しかしコロナが日常であることに慣れてきたBL読者は、癒しだけでなく別の世界に旅立つような刺激を作品に求め始めたのではないだろうか。この読者の気持ちの変容が、ファンタジー作品の人気の背景にあるのではないかと考えている。
「年の差」と「ファンタジー」。筆者はこの2つのキーワードが、2021年度のBLのトレンドになると踏んでいる。この予想が当たるか、外れるか。「BLアワード2022」の発表も待ち遠しい。
またなにより作家の皆さんが名作を生み出し続けてくれているからこそ、筆者のBLライフは素敵に充実したものとなっている。2021年に出会えた作品に感謝しつつ、来年も新たな作品に落ちる瞬間を楽しみたい。