『ましろのおと』主人公・澤村雪はなぜ人を惹きつけるのか 津軽三味線を通して見える魅力を考察

家族以外にも徐々に開かれていく心

 他人といるときの雪は少し言葉足らずだ。ムッとした表情を見せることはあるが感情をむき出しにしない。素の自分を見せるのは兄の若菜と、母親の梅子の前だけ。若菜には敬愛や信頼、梅子には嫌悪感と見せる表情は違うが、感情を表に出していることは間違いない。これは雪の不器用な性格をよく表している。人との距離感を掴むのが下手で、相手の気持ちを慮るのが苦手だ。だからよく知っている家族にしか素直になれない。他人とは、言葉を介するよりも、演奏を通じてのほうが心を通わせやすいようにも思う。

 そんな雪が少しずつ若菜や梅子以外の人間にも心を開いていくようになる。それが、雪が所属するSTCだ。共に演奏活動をしていること、全国ツアーで寝食を共にしていることもあり、雪は自然と感情を表に出すようになる。

 雪から愛情を感じ取るのは難しい。しかし、心を開くことが、雪にとっては愛情につながるのかもしれない。STCはもはや家族に近い存在といっても過言ではないのではないか。

三味線を通じて描かれる、無口な「普通の男の子」

 津軽三味線、と聞いて少し身構える。おまけにあまり自分のことは語らず、心も開かない。が、よくよく見てみると、ごく普通の男の子だ。そんな普通の自分を出せない雪は、人の興味を引く。「どんな人なんだろう」と好奇心を掻き立てられる。実は不器用で、少し臆病で、真っすぐで、愛情深い人だ。

 雪を通じて津軽三味線の魅力を見せられるのと同時に、津軽三味線を通じて私たちは雪という人物の魅力をより強く印象付けられているのかもしれない。

 大人になっていく過程でその音をどのように変えていくのか、楽しみだ。

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