絶滅した鳥“ドードー”をめぐる大活劇が面白い 著者の熱量に圧倒される『ドードーをめぐる堂々めぐり』
その中でも特に興味深かったのが、正保4年(1647)に、ドードーが日本に来ていたという一件だ。この年、長崎で大きな騒動が起きた。二隻の軍船に乗って、ポルトガルの使節が来日したのである。しかし、すでに鎖国していた徳川幕府は、使節が勝手に上陸したり出航することを拒否。四国と九州の藩を駆り出し、港を封鎖したのである。なお本書では、この騒動を「長崎有事」と表記しているので、以後はこれに従う。
6月から始まった「長崎有事」だが、8月29日に幕府の方針が決定する。端的にいえば、おとなしく帰ってもらい、何もなかったことにしたのだ。いかにも日本的な、なあなあな処置だ。それはさておき、この方針が決定した日の午後に、オランダ船「ヨンゲン・プリンス号」が沖合に現れる。そして封鎖の一部を解いて、湾内に入ることが許された。このオランダ船に、ドードーが乗っていたのだ。なんともドラマティックな話である。
しかもこの「出島ドードー」の存在が明らかになったのは、最近のことだ。ロンドン自然史博物館の研究員が、このことに関する論文を発表したのは、2014年のことだという。その後の著者の調査により、日本側の史料によって、もっと早く「出島ドードー」の存在に気づく可能性があったことが指摘されている。しかしまあ、よく調べ出したものだ。著者の好奇心に基づく行動力には、感心するしかない。
さて、これだけでもムチャクチャに面白いのだが、著者の情熱は止まるところを知らない。ドードーを追って、調べに調べる。といってもドードー自体が存在しないので、必然的に周辺調査になる。「出島ドードー」の行方を探索したと思えば、世界的に知られた、日本人のドードー研究家・蜂須賀正氏の業績を調べる。わずかに残された、ドードーの骨や標本を見るために、世界を股にかける。著者の知的冒険の旅は、そのままで貴重な記録になっているのだ。そしてその記録が本になったことで、多くの人があらためてドードーに注目するようになる。もしかしたら、これにより新たな事実が発見されるかもしれない。ドードーの追究に終わりはなく、だからこそ面白いのだ。
ところで本書の著者は、優れた小説家でもある。だから期待したい。いつかドードーをめぐる堂々たる物語を書いてくれることを。