『極主夫道』に感じる『ごっつええ感じ』の“ズレ” 作品の強度を高める笑いのメカニズムとは?
オチのないシュールさ
オチのないシュールな幕引きも特徴のひとつだ。ショートコントのような切れ味と読後感が本作にはあるが、この手のオチのないコントは『ダウンタウンのごっつええ感じ』でよく見られたスタイルだ。おおの氏も『ごっつええ感じ』は見ていたらしく、『孤狼の血』の柚月裕子氏との対談で影響を受けたと語っている。(https://www.bookbang.jp/review/article/667362)
『ごっつええ感じ』の「兄貴」というコントは、『極主夫道』によく似た雰囲気の作品だ。ヤクザの兄貴の松本人志と子分の今田耕司が、借金の取り立てに浜田建設にやってきて、ズレた反応をしまくる。明日きっちり振り込むという浜田社長に対し、振込の意味がわからなかったり、キャッシュで払うと言われればティッシュと勘違いしたりというボケで笑わせてくれるシリーズだ。ヤクザの怒鳴り込みの緊張とその無害な予期せぬ反応によって、絶妙に笑わせてくれ、そして、ひとしきりズレた反応をした後、兄貴と子分は取り立てずに帰ってしまい、そのままコントが終わる。
こうしたコント番組の感覚をマンガで活かしているのが『極主夫道』という作品の特徴と言えるだろう。おおの氏はお笑いをよく知っている人間だからこそ、笑いの基本に敏感で「ズレの理論」のメカニズムを感覚的に体得しているのだと思う。
また、ギャグマンガによくあるデフォルメ絵を使用しないのも大きな特徴といえる。デフォルメ絵を使えば緊張からギャップある緩和を生み出すのも比較的簡単だろうが、そういう方法に頼らない。それも作者のおおの氏が笑いのメカニズムを良く知っているからこそできることだろう。本作はそのメカニズムを学ぶのに最適な作品と言える。