伝説的少女大河小説『流血女神伝』のコミカライズは理想的? 須賀しのぶが伝える普遍的なメッセージ
ジェンダーにまつわる問いや、異文化との衝突を描き続けた
須賀しのぶはまた、少女小説というフォーマットの中で、ジェンダーにまつわる問いや、異文化との衝突を描き続けた作家である。本作でとりわけこれを象徴するのが、グラーシカというキャラクターである。
グラーシカは北方の強国ユリ・スカナの第二王女でありながら、ドレスではなく軍服を身にまとい、兵舎で親衛隊とともに暮らしている。彼女の望みは、国を継ぐ姉のために軍を率いることだった。
ユリ・スカナには女の将軍がいるが、カリエが暮らすルトヴィア帝国では女が剣を手に取ることはない。周囲の貴族はユリ・スカナを野蛮な国とみなし、グラーシカを変人扱いする。だがカリエは、グラーシカとの出会いで、これまであたり前とみなしていたことに対して、疑問を抱くようになった。「グラーシカのような選択肢があるなんて考えてもみなかった。どうしてルトヴィアの女には、そして男にも選ぶ権利はないの?」
カリエの目を見開かせることになるグラーシカは、気高く格好よいキャラクターとして造型されており、彼女の存在感は『流血女神伝』を読む楽しみのひとつでもある。コミカライズ版ではロングヘアになり、より一層麗しさが増した姿で登場する。
須賀が少女小説に託しているのは、年齢や性別を超えた普遍的なメッセージである。角川文庫版の『帝国の娘』下巻のあとがきには、以下のような記述がある。
「少女小説とは、夢です。ですが決して、甘くて都合のいい夢を見せるためだけの道具ではありません。少女に寄り添い、魅力的な光景を時に見せながら、大事な一歩を踏み出すために手を引いてくれるものだと私は思っています。だからこそ、大人が読んでもまったくかまわないのです。」
コミカライズで『流血女神伝』に初めて触れた人は、ぜひとも原作小説の「帝国の娘」上下巻にも挑戦してほしい。シリーズは「帝国の娘」から始まり、「砂の覇王」「暗き神の鎖」「喪の王女」と続いていく。「帝国の娘」で物語が一段落するが、ここはまだカリエの激動の人生の序章に過ぎない。できるだけ長くコミカライズが続くことを願いつつ、連載を応援していきたい。