“レコードハンター”村上春樹が語るクラシックの魅力とは? 名演の分析ににじむ作家としての心得

村上春樹が語るクラシックの名演の魅力

 エッセイでは、6人の指揮者による「泥棒かささぎ」序曲の聴き比べが行われる。評価のイマイチなのが、硬派だったり格調高かったり堅苦しい演奏。

〈聴いていてなるほどと感心はするけれど、遊び心がないのでもうひとつ盛り上がらない〉

 高評価だったのは、イタリア・オペラを得意とするランベルト・ガルデッリ指揮による演奏。

〈さすがにこの人は、序曲というのはそれ自体で完結する単体の作品ではなく、本体の歌劇や歌劇場に結びついて機能しているものだということがしっかり呑み込めている(略)聴いていてなんだかわくわくしてくる〉

 クラシック・ジャズ・ロック・ポップスといったジャンルの曲名やアーティスト名や歌詞を内容も踏まえた上で物語の中で使い、登場人物の心理や物語の行方を示唆する要素として機能させてきた村上春樹。「泥棒かささぎ」序曲の演奏を評するコメントからは、彼の創作における心得のようなものが見えてくる。

 他にも村上作品を読み解くヒントとなるような記述はないかと探していく内に、本書に出てくる曲が新作で使われるかもしれないなんて妄想も膨んでくる。蓋を開けてみたら未収録の意外な曲が使われていて、「中古屋のバーゲン箱で見つけて……」なんて掘り出し物自慢を後日されそうな気もするけれど。

■書誌情報
『古くて素敵なクラシック・レコードたち』
著者:村上春樹
出版社:文藝春秋

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