アニメ放送スタート『平穏世代の韋駄天達』が注目される理由 異色のSFバトルの新しさ

『平穏世代の韋駄天達』見どころ

 白泉社が刊行する『ヤングアニマル』に、神vs魔族vs人類の三つ巴を描く一風変わった作品が存在する。その名も『平穏世代の韋駄天達』。神々しさを感じないタイトルがより興味をひく本作は、2021年7月22日からフジテレビ「ノイタミナ 」枠にてアニメ放送も開始した、現在大注目の作品である。そこで本稿では『平穏世代の韋駄天達』の唯一無二の魅力を改めて紹介する。

 本作は魔族が人類を滅ぼしかけた、現代より800年以上昔の場面から始まる。当時人々を蹂躙する魔族に人類は為す術なく、彼らには終末を待つ以外に神に祈る選択肢しか残されていなかった。しかし本当に現れる「韋駄天」と呼ばれる神たち。人間達の祈りによって現れた韋駄天は、願い通り魔族を倒して見せた。

 そして現代ーー。

 韋駄天のハヤトは師匠のリンに、稽古を付けてもらっていた。しかし彼は厳しい稽古に意味を見出せずにいる。リンの元に顔を出しているハヤトはまだ良い方だ。彼を除けば若い韋駄天は他に2人。しかし眼鏡を掛けたイースリイは本を漁り知識を蓄え、可愛い少女の姿をしたポーラは鳥との戯れに興じていた。唯一魔族との戦いを知っているリンは、「800年もの平和は、あまりにも長すぎたようです」と呟く。3人は800年以上も魔族の脅威に晒されない世界に発生し、発生後1度も魔族との戦いに臨んでいない。その状況が戦いの神である韋駄天の在り方を変えてしまったのだ。

 その頃帝国ゾブルの博士が、氷山で何かを企んでいた。彼の前には、氷山で冷凍保存された恐ろしい魔族の姿が。ゾブルの軍事力を使い魔族を復活させてしまう博士。

 こうして800年の時を経た、魔族と「平穏世代の韋駄天達」の人類を巻き込んだ戦いの火蓋が落とされる……!

 『平穏世代の韋駄天達』は天原がウェブサイト「新都社」にて発表していた作品を、クール教信者を作画に迎えリメイクした作品である。元々商業誌では『異種族レビュアーズ』でお馴染みであった天原。そしてクール教信者は『小林さんちのメイドラゴン』や『ピーチボーイリバーサイド 』が揃って今期アニメとして放送する、現在最も脂の乗っている漫画家である。天原は元々ウェブサイトで活動する漫画家であったため、本作には過激な描写も多い。そしてその内容は巨乳趣向として知られ、こちらもウェブで活動していたクール教信者との相性も良かった。

 漫画ファンからすれば現代漫画界の鬼才が組む、垂涎のタッグとなっている本作。バトル漫画で「神」と言えば、他を寄せ付けない圧倒的な強さで描かれることが多い存在である。その前提があるからこそ、「ゆとり世代」と「神」のミスマッチは新鮮で面白い。神であっても挫折をするし、神であっても逃げ出す。本作は最強無敵唯我独尊の神を想像しながら読むと、そのギャップを十分に感じられるだろう。

 しかし、彼らは退化している訳ではない。「根性がない」「やる気がない」と言われてしまいがちなゆとり世代だが、変に子供っぽさがなく「小手先が器用」なのも大きな特徴だ。その特徴に当てはまるのは、本作の平穏世代達も例外ではない。元々本能のままに蹂躙するのみだった魔族は、人間と融合して人間の姿と知性を得た。彼らは純粋な戦闘では韋駄天に敵わず、その知性を武器に技術力や組織力で勝負をかける。しかし各々が好きに過ごしてきた韋駄天達の中にも、戦闘力では無く知略や技術力に長けた存在が現れたのだ。肉弾戦だけで無く頭脳戦も描く、まさに現代版「神vs魔族」の設定は、古風な世界観を残しがちなファンタジー作品においてその真新しさを発揮していた。

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