アイヌ文化を描く漫画は『ゴールデンカムイ』だけじゃない 石坂啓の隠れた名作『ハルコロ』の現代性

『ハルコロ』で示した石坂啓の姿勢とは?

大事なのは「伝えること」と「知ること」

 いずれにしても、石坂啓といえば、(少女漫画と手塚漫画を合体させたような、あの可愛らしい絵柄からはちょっと想像しにくいかもしれないが)戦争物をはじめとした反骨精神あふれる作品を数多く発表してきた気合いの入った漫画家だ。常に彼女が寄り添ってきたのはマイノリティの存在であり、その作家としてのアティテュード(姿勢)は、この『ハルコロ』でも充分活かされている。

 そういえば、今年の3月、ある情報番組でアイヌ民族を傷つける表現が「ギャグ」として放送されてしまい、大問題になったのを覚えている方も少なくないだろう。その問題の発言をした芸人は、自分が言ったことが、まさか、かつてアイヌの人々が実際に差別を受ける際にいわれていたことだとは思いもよらなかっただろうが、なぜ、そんな“事故”が起きてしまったのかといえば、ひとえに彼(ら)の「無知」がそうさせたからにほかならない。

 だからこそ、石坂啓のような、「伝える人」の存在が重要なのだ。いまさらいうまでもないが、アイヌの歴史や文化を知ることは、遠い異国のそれを知るのとはわけが違う。それは、我々「内地人」が近代化にともない飲み込んでしまった、すぐ傍にいた(いる)人々の姿を知ることであり、かつ、いま挙げたような「無知」からくる差別を、これ以上生み出さないためにも絶対に必要なことである。

 そのためにも、現在大ヒット中の『ゴールデンカムイ』(野田サトル)や、この『ハルコロ』のようなコミックをきっかけとして、まずは若い世代の人たちがアイヌの世界に興味を持ってもらえたらいいと思っている。そう――大事なのは、伝えることと知ること、なのである。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter

■書籍情報
『ハルコロ』1〜2巻
石坂啓 漫画
本多勝一 原作
萱野茂 監修
定価:各1,430 円(税込)
出版社:岩波書店

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