田島昭宇が描き出した“光と影”の世界 画業35周年記念作品集『Baby Baby』で読み解く作家性
『多重人格探偵サイコ』(原作・大塚英志)や「MADARA」シリーズなどで知られる田島昭宇の画業35周年を記念した作品集、『Baby Baby』(発行・小学館クリエイティブ/発売・小学館)が先ごろ刊行された。
収録されているのは、「Baby Baby」、「SUZUGAMORI」、「場所」、「7月4日ハレ。」、「とどめをハデにくれ!!」、「プラネタリウムの天使」の全6作品。いずれもこれまで単行本に未収録だったレアな作品ばかりだが(注・一部の作品はムックなどに再録されたことはある)、なかでも注目すべきは表題作の「Baby Baby」だろう。
同作は、1995年から96年にかけて『comic newtype』で連載されたものの、3話まで物語が進行した段階で中断、長らくファンのあいだで“伝説”となっていた未完の作品である。なお、今回の作品集では、なんとその既発表分に加えて、新たに「エピローグ」が描き下ろされている(つまり、一応の完結を見せている)。
主人公は、降(コウ)という名の謎めいた少年。この降が、ある時、耳の聞こえない少女・文音(モネ)と出会ったことで、物語は動き出す。余談だが、かつて雑誌連載時にリアルタイムで読んでいた人たちは、この作品のことを、歌の上手い少年と詩を書く少女の恋愛を軸にした「音楽漫画」だと思っていたのではないだろうか。
かくいう私もそうであったが、実は、田島が構想していたのはまったく異なるジャンルのハードな物語であったということが、四半世紀の時を経て、本書の巻末に掲載されている語り下ろしのインタビューで明らかになる(注・聞き手は筆者)。それがどういう内容の物語かは、実際にそのインタビューと描き下ろしの「エピローグ」をお読みいただきたいと思うが、『多重人格探偵サイコ』のファンなら思わずニヤリとするような展開がさりげなく用意されている、ということだけはお伝えしておこう。
また、この「Baby Baby」では、「天使」が重要なモチーフとして描かれているのだが、それは、本書の巻末に収録されている短編「プラネタリウムの天使」も同様である。前者では誰かの「願い」が込められた存在として、後者では、主人公が破壊する「聖なるもの」のメタファーとして、天使が描かれる。
田島昭宇といえば、漫画家としてもイラストレーターとしても、どちらかといえば悪魔的なイメージのほうが強いと思うが、それゆえに、対極にある「天使的なもの」にも惹かれるのだろうか。
いずれにせよ、この天使的なもの(=生・聖・正義など)と悪魔的なもの(=死・暴力・狂気など)の両義性が、田島の作品の最大の魅力のひとつであるのは間違いないだろうし、そのことは、彼が描く白と黒のコントラストが強い絵にもよく表れている。