『後ハッピーマニア』は浮気と尾行のオンパレード! 40代になったシゲタの“幸せ探し”はさらなる混迷へ
40代の恋愛市場の男女差
シゲタカヨコと言えば、「やってから考える女」というフレーズが公式についた女だ(『ハッピーマニア1巻ACT3の表紙参照)。実際、前作では毎巻セックスしていたし、連載初期に至っては毎エピソードセックスしては後悔するを繰り返していた。「はっきりゆってオトすのは得意!! どうやって手出してくるか、Hにもちこめるか、百も承知」と豪語していたシゲタだが、今作では2巻まで経過しても一度も男とやっていない。なぜなら、45歳のシゲタは16年前と違い、残酷なまでに恋愛市場で相手にされなくなっているからだ。
寂しさを埋めるために呼び出した元セフレの田嶋に、「恋人同士に見えちゃうかも・・」と気遣うシゲタに対し、田嶋は「見えないよ」と言い放ち、「15年前はストライクゾーンかすってたのよ」とまで言われてしまう。当然、シゲタもそれで傷つくわけだが、シゲタ自身「今のこの歳でイチから恋愛とか・・・無理なんだけど? 仮に相手がいたとしてどうすんの?」などと考えてしまうようになってしまっている。
恋愛市場は心にきつい。絶えず自分に価値があるかどうかを値踏みされているようなものだ。45歳で値踏みされるキツさが2巻には詰まっている。40代は、男女の不平等さが否が応でも目につきだす。仕事でも恋愛でも。全く相手にされないシゲタに対し、モテ男である田嶋には8人の愛人がいる。恋愛強者ではないタカハシですら、不倫に走っている。
例外的な存在として、若い男と関係を持っているシゲタの親友、フクちゃんがいるが、彼女は自ら立ち上げた化粧メーカーの社長で日々美しさを保つために並々ならぬ努力を重ねている。このレベルの努力をせねばアラフィフでは恋愛市場に参入できないのか、と思わされる。
実際、40代、50代の女性の恋愛模様を描く娯楽作品は日本に少ない。日本どころか世界的にも多くないだろう(フランス映画ならそれなりにあるが)。卵か先か、鶏が先かわからないが、40代になると恋愛しようという気持ちが失われていくのは、社会の不平等のせいなのか、年を取ると自然とそうなるものなのかわからない。ただ、本作で描かれるように40代ともなると、恋愛強者としてふるまいやすいのは間違いなく男の方なのだ。
「こんなんで次の恋愛とかできんのかな・・・」と悩み、次の瞬間にはシゲタですら、「ていうか、しなくてよくない? この歳で市場に出るの苦行でしょ、なんか値踏みされたりかけひきしたりとか」という発想になってしまう。社会のせいか自分の変化か、いずれにしても自分の中から「恋愛ってジャンルが消え失せて」いってしまうのだ。
人の幸せは恋愛だけではない。歳を重ねて経験を積むと、家庭や趣味、仕事など様々なものに幸せを見出せるようになるのかもしれない。シゲタはここからどういう道に幸せを見つけてゆくのだろうか。
『後ハッピーマニア』は前作以上に混迷している。超恋愛体質だったシゲタは、前作では「理想の彼氏」という幸せのゴールを思い描いて行動できたが、今作では幸せのイメージそのものがまだ描けていない。前作よりも果てしなく険しい「ハッピーマニア」の道をシゲタはいかに辿るのだろうか。そして、そんなシゲタの姿は現代社会で何が幸せかわからないでもがいている私たちの姿と重なる。『後ハッピーマニア』は前作に続いて、またしても時代を深く切り裂く傑作になる予感が早くもする。
■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。
■書籍情報
『後ハッピーマニア』1〜2巻発売中(FEEL COMICS)
著者:安野モヨコ
出版社:祥伝社