ジャンプ編集部が本気で教える、マンガを描くのに必要な「心構え」とは?
話を本書に戻そう。凄いと感じたのは、ジャンプの人気漫画家に、ネームを書いてもらったり、質問に答えたりしてもらっていることだ。「下校中の男子2人組(学生)。ひったくり犯を見つけて捕まえる」「会社をクビになった人(男性でも女性でもOK)が公園で落ち込んでいる。公園にいた子供が心配してくれる。励ましとしてクワガタをもらい、ちょっと元気がでる」という2ページのネームを、白井カイウ・附田祐斗・筒井大志・空知英秋が描いているのだ。同じストーリーで描いても、それぞれキャクターや見せ方が違う。漫画家を目指す人なら、これだけで参考になるだろう。しかもコメントで、それぞれの漫画家がネームの意図と方法論を披露してくれる。まさに出し惜しみなしである。
さらに漫画家へのアンケートも注目に値する。13の質問に対する答えを見て感心するのは、多くの人に読まれることを強く意識していることだ。ここまで徹底しているのは、やはりジャンプの漫画家だからではなかろうか。また、「漫画を描くときに心がけていることはありますか?」という質問に対する、芥見下々の答え「自分と同世代にセンスいいと思われようとしないこと」には、限られた場所に安住しないという覚悟が窺えて痺れた。
さらに、デジタル作画のコツをミノウラタダヒロに訊いたり、アナログ作画のための道具選びを四谷啓太と田代弓也に語ってもらうなど、「技術」の部分も漫画家を活用。なんとも贅沢な漫画の描き方の入門書なのである。
ただし書かれている内容を生かすかどうかは、読んだ人次第。最後の方で、ジャンプ編集部は、「この本に書かれていることは、どれくらい守ったほうがいいのでしょうか?」という質問に対して、「自分に当てはまりそうと思ったところだけ参考にする・納得いかなければ無視する…という使い方をしてもらえればうれしいです」と答えているではないか。それでも、「漫画の描き方には唯一絶対の『正解』はない」「流行りなんか気にしなくていいよ」「『結局、何を一番描きたいの?』」などなど、随所にちりばめられた教えから、学ぶべきものは多い。きっと本書を読んだ漫画家志望者から、次代の「週刊少年ジャンプ」を背負う人気漫画家が現れることだろう。その日を楽しみに待ちたい。
■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。
■書誌情報
『描きたい!!を信じる 少年ジャンプがどうしても伝えたいマンガの描き方』
編集:週刊少年ジャンプ編集部
出版社:集英社
価格:本体900円+税
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-790022-4