印度カリー子 × 幸村しゅうが語る、スパイスへの飽くなき好奇心 「普通のご飯食べてもなんにも楽しくない」

印度カリー子 × 幸村しゅう「カレー対談」

 東大院卒のスパイス料理研究家・印度カリー子の最新レシピ本『一肉一菜スパイス弁当』(世界文化社)と、第2回「日本おいしい小説大賞」を受賞した幸村しゅうの『私のカレーを食べてください』(小学館)。2作品ともカレーの日(1月22日)に発売され、各所で話題を呼んでいる。「リアルサウンド ブック」ではカレー&スパイスの魅力をテーマにオンライン対談を企画。両作品の見どころ、お気に入りのスパイス料理、スパイスの魅力、今後の展望についてなど、大いに語ってもらった。(編集部)

印度カリー子監修のカレーレシピを収録

幸村しゅう

ーーまずは幸村先生、第2回「日本おいしい小説大賞」受賞、おめでとうございます。

幸村しゅう(以下、幸村):ありがとうございます。去年はコロナ禍で受賞式もなかったので受賞の実感が湧かなくて……。受賞を電話で聞いたときも、ばんざいというよりは、ほっとしたというか。それからすぐ書き直しが始まったので、受賞を実感したのは本屋さんに行って自分の本を手に取ってやっと、という感じです。

ーー印度カリー子(以下、カリー子):実は超久しぶりに読んだ小説が幸村先生の本でした。そんな人間でも先生の本はするするするするー!って読めたので、これは本当に誰でも楽しめるだろうなと思います。

ーーお気に入りの登場人物はいましたか?

幸村:(主人公の)成美でしょ(笑)。

カリー子:成美以外考えられない(笑)。半分投影しちゃってますもん。

幸村:年齢も変わらないんですよね。

カリー子:変わらないんです。友達いないところとかも……(笑)。私は無駄に正義感が強いんですけど、成美も正義感が強くてカレークレイジーなところがあるので自分と重ねてしまいました。

幸村:カリー子さんよく、「友達が……」とかっておっしゃるけど、友達がいっぱいいてもやりたいことがない人より、やりたいことを持ってていつの間にか友達みたいな人が現れる、という方が幸せなんじゃないかと思いますよ。

カリー子:うん、そうですね。成美がみんなにカレーを振る舞うエピソードがあるじゃないですか。みんながおいしくないご飯を食べてる現状が、正しくないと思ったんでしょうね。それで厨房でなんとかカレーを作るという決断をする。そこはたぶん自分でもそうするだろうなと思いました。

幸村:カリー子さんが作ったら、みんな拍手してくれると思います。

カリー子:作ったカレーを想像しましたもん。成美きっと「チキンチェティナード」作っただろうなって。読んでる間、成美のことしか考えてなかった。だからずっと、楽しかったです。

幸村:ありがとうございます。

ーー幸村先生は本作が小説家デビュー作ということですが、書くにあたって、苦労された点などはありましたか?

幸村:20代のときに映画の助監督をしていて、その仕事をしながらシナリオを書いていたんですが全然芽が出ませんでした。その後、助監督から転職したんですが、箸を持つのも嫌になるくらい忙しくて、カレーばかり食べていたんです。料理に手をかけられる時間がなかったし、気持ちも向かなかった。いつか自分で本を書いてみたいという気持ちはずっとあったので、カレーの話なら書けるかな、と安直な理由で書いたんです。しばらく経って、たまたま「おいしい小説大賞」の存在を知って、そういえば前にカレーの話を書いたなあと思い出して、題材をスパイスカレーに書き直して応募しました。

 昔書いたものを読んで一番反省したのは、全然カレーがおいしそうじゃないということでした。これを「おいしい小説」にしなきゃいけないなと思って、カレーを食べ歩いたり、本を読んだりしました。スパイスカレーをまったく作ったことがない人は、ターメリックは知っててもクミンとかコリアンダーは知らない。だから主人公の成美という少女と一緒に、「じゅげむじゅげむ」みたいな感じで一からスパイスを覚えていくのも楽しいかなーと思いながら書きました。

 でも、グルメ本みたいにはしたくなかったんです。食べ物って体をつくるものなので、食欲とかお金のあるなし関係なく、旺盛に健全に食べられるもの、という風にしたかった。あとはふだん小説を読み慣れてない方にも読みやすいように17章に分けたり、ちょっと勢いのある表現も心がけました。

ーー応募作にする際に本を読んだりされたということですが、どんな本や作家を参考にしましたか?

幸村:椎名誠さんの助監督をしていたので、椎名さんの本はよく読んでいました。椎名さんの食べ物の描写ってすごくそそるんですね。あとはいろんなサイトの口コミとか、「この店行ってみたい」って思わせられる書き方をしている方の文章を参考にしました。

ーーなるほど。『私のカレーを食べてください』の巻末に、物語に出てくるカレーのレシピが載っていますが、こちらはカリー子さんが監修されていますね。

幸村:本の中に出てくるスパイスに間違いがないかカリー子さんにお伺いしつつ、どれをレシピにしようかという相談をしました。それで本の発売日に、カリー子さんのレシピを使って表紙と同じカレーを作ってTwitterにアップしたりもしました。

ーーすごいですね。難しそうです……。

幸村:いえいえ、全然。スパイスカレーのレシピって世の中にいっぱい出ていますけど、カリー子さんのレシピは初心者に非常に親切なんですよ。私、元々料理は得意じゃないんです。ちゃんとレシピ通り大さじ一杯量って作ることもあるんですけど、だんだん雑になります(笑)。

カリー子:私もすごいズボラなんですよ。感覚でレシピが書けるようになるには経験や知識がベースになくてはならないですが、レシピ作りは現場で起こっているんですね。机上でいくら綿密に設計しても、実際に作ってみると全然違ったりします。

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