異質な学園漫画『ここは今から倫理です。』はなぜ人気作に? 「倫理」で解決する“思春期の悩み”
本作は倫理教師である高柳を主人公とした作品だ。悩みを持った生徒達を、高柳が倫理で学ぶ考え方や名言を用いながら解決する姿がオムニバス形式で描かれている。
悩みの種類は「いじめ」「病気」「非行」と様々だが、漫画では取り扱いが難しいほど重いものも多い。本作は学校というフィルターを通して、現代社会に倫理を問う作品となっている。よって「学園」はあくまで物語の舞台に過ぎず、学園漫画でお決まりの部活や恋愛などの描写はほとんど描かれない。なのにも関わらず本作を「魅力的な学園漫画」として読んでしまう理由は、“悩み”こそ思春期を象徴する1番の要素だからなのだと思う。
人生の中で1番多感な時期である学生時代は、皆が多かれ少なかれ様々な悩みを抱えている。つまり爽やかでアツい学園漫画よりも、『ここは今から倫理です。』はよっぽど“学園漫画”なのだ。本作は心情に訴えかける漫画の舞台に学園を選んだことで、学園漫画としてもハイレベルな作品に仕上がったと言える。
また教師が主人公の漫画としては、高柳は珍しいキャラクター性をしている。本作では倫理教師として登場する高柳。基本的に教師漫画の主人公は、絶対的な存在として描かれる作品が多い。正義感に溢れ、ブレない信念がある。ある意味人間味のない特別なキャラクター性に惹かれるのだ。しかし高柳にはそれがない。一見クールで冷静な性格に見えて、想定外の出来事が起これば顔を赤らめ慌てる姿も見せる。また作中では高柳が生徒への正しい対応に頭を悩ませたり、ときには生徒を救えないこともあった。「倫理」という学問は、数学や国語と違い絶対的な正解がある教科ではない。高柳の“不完全でありながら試行錯誤する姿勢”は、「正解を導くのではなく、正解を追い続ける学問」である倫理をテーマとした本作に、深みを持たせているのだ。
倫理学で生徒の人生を変えていく教師を描いた『ここは今から倫理です。』。教師ももちろん人間であり、全ての問いの答えを知っているわけでは無い。しかしその中でも高柳は倫理を用いて、正しい道を示そうと奮闘している。連続ドラマも放送中の本作。倫理に興味がある人はもちろん、悩みを抱えている人、そして人間らしい学園漫画が読みたい人は、本作をぜひ一度手に取って欲しい。
■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。