「FEEL YOUNG」編集部に訊く、漫画を通して伝えたい想い 「理想を描くことで現実世界にも何かしらの影響が返ってくるはず」
漫画で“めくるめくときめき”を感じて欲しい
――作家さんの中にも様々な経歴を持った方がいらっしゃると思いますが、編集部としてはどういう方に連載のオファーを出されているのでしょうか。
神成:特には決めておりません。各々が好きな作家さんにオファーを出していて、あまりジャンルを設けないようにしています。基本的には女性が読んで面白ければOK。例えば私は和山やま先生の作品をTwitterで知って、ぜひ連載をご依頼したいと思ったんですが、これまでのフィーヤンのイメージとは異なる作風でしたので最初は梶川に相談したんです。でも「行きなよ!」とあっさりGOが出たので、すぐにご連絡しました(笑)。
梶川:シュークリームはボーイズラブや電子配信少女漫画に、エッセイなども制作しているんですが、フィーヤンとは別の媒体をメインにしているスタッフでも「この作家さんと仕事したい」と動けば連載を立ち上げることはできるんです。だから他の編集者がどこから作家さんを探してくるのかは私たち二人も全然把握できていないほど幅広いものです。
――たくさんの作家さんたちと作品づくりに携わっているお二人が、漫画を通して今の若い読者に伝えたいメッセージはなんですか?
梶川:私は河内遙先生を担当しているのですが、10年前に『夏雪ランデブー』連載時に先生が仰った「これまで自分が少女漫画から受け取った“めくるめくときめき”を読者の方に伝えたい」という言葉にとても感銘を受けたんです。漫画ってページをめくらないと先が読めない展開と、先が読めていたのに思った通りの楽しさをくれる展開があるじゃないですか。どちらにしてもページをめくるたびに感情が溢れ出る。そんな“めくるめくときめき”をさまざまな作品で感じてほしいです。
神成:私は愛してやまない雑誌であるフィーヤンをますます面白くしていきたいというのが一つ。もう一つは、フェミニズムを描く作品をもっと担当したいという目標があります。物語そのものを楽しんでもらうことはもちろん大事ですが、次世代に想いを繋げていきたくて。例えば『夢の端々』で結ばれなかった二人の女性は、どうすれば共に生きていけたのか、どんな世界だったら結ばれたのか……など、改めて考えていただければ。またこれは『ジェンダーレス男子に愛されています。』(ためこう)で考えていることなんですが、ジェンダーレスな格好をしている男の子を揶揄する人間を作品の中で絶対に出したくないんです。たとえ夢物語に思えるようなことでも、そういう世界を作るために理想を描く必要がありますし、理想を描くことで現実世界にも何かしらの影響が返ってくるはずだと思っています。
――個人的には、ターゲット層とは少し異なる10代の女性や男性にもぜひフィーヤンの作品を読んでほしいと思いました。
梶川:やっぱり時代の変化に伴い、時々【女性漫画】という言い方に違和感を帯びる場面が増えてきているなと思います。恐竜好きの研究室ラブコメ「アヤメくんののんびり肉食日誌」(町 麻衣)は男性の読者さんも多いですし、「違国日記」は「多様性」をテーマの1つとして持っている作品で、【女性漫画】という表記も別の言葉に言い換えられないものかと思うことはあります。ただ読み手からすると、ジャンル分けされている方が手に取りやすいですし、ボーダレスにすると逆にどこから読んでいいものか分からず困惑すると思うんですよね。ある程度ターゲットを絞る方がソリッドな面が作中に出やすい。だからこそ、難しい問題だと思います。
“いま”読んで欲しい担当作品
――最後に、お二人が担当されている作品のおすすめポイントを教えてください!
梶川:おかざき真里先生の『かしましめし』をおすすめさせてください。「サプリ」は広告会社を舞台に「働くこと」と「恋愛」が濃密に描かれ、働く女性として励まされる作品でした。そこからダブルワークを描いた「&」を経て、現在の「かしましめし」に至るわけですが、こちらは大学の元・同級生の社会人男女3人のルームシェアものです。彼らが作って食べているごはんが、本当に美味しそうでとてもお腹がすくのですが、読み進めていくうちに、「自分を息ができる場所って大事だ」って感じさせてくれるんです。誰しも会社や学校などで厳しい状況になることはあると思うんですが、そこで立ち向かい続けるばかりがすべてではなく、安心できる場所を持つことに目を向けさせてくれます。社会で働くさまざまな人々を肯定してくれるような、ほっとする作品です。
神成:私は、まず池辺葵先生の『ブランチライン』から。池辺先生はこれまでも作品を通してあらゆる立場の女性を肯定してこられたのですが、今作も四姉妹とその母親が登場し、年齢から、既婚未婚・子供の有無などバラバラな5人の、精神的に豊かな暮らしを描きながらすべての女性の生き方を肯定してくださっています。また、彼女たちはシングルマザーである長女の一人息子を共に育て上げた女性たちなんですが、帯にも描いたように本作は「罪悪感」がテーマのひとつで、人を育てること、他者に影響を与えずには生きられない大人としての責任が描かれています。私自身も、池辺さんの描かれる世界に触れて次世代に影響を与える者としての責任を改めて実感しました。
梶川:もうひとつ、テレビドラマ化もされたかわかみじゅんこ先生の『中学聖日記』をおすすめしたいです。主人公・黒岩少年と担任教師・聖の恋というテーマで知られている作品ですが、物語の中身はどこまでも真摯です。純粋すぎる少年が担任教師に恋心をぶつけ続けたら、彼女は大人なのに「応えてしまった」。大人としての責任が問われる今の社会と真っ向から対立する物語だと思います。でも道をはみ出てしまった大人が、責任を取りながら恋心をどうやって抱えていくか、という難しいストーリーが丁寧に描かれていて毎話胸が締めつけられます。そして、透明感のある繊細な絵が美しい……! 原稿を受け取るたびに、日常の嫌なことが溶けてしまうような感覚になる、素晴らしい美しさです。
神成:最後に、1月に1巻が発売されたねむようこ先生の『こっち向いてよ向井くん』。ねむ先生は恋愛漫画の名手ですが、ご自身は妊娠・出産を経て「恋愛が遠くなってしまった」と感じていらっしゃったようで。新連載の打ち合わせでも、もはや若い世代の恋愛事情がわからないと仰っていたんですが、今回は「男女の恋愛観のすれ違いは何で生じるのか」をテーマに、主人公の向井くんがたくさんフラれる作品を連載することになりました。
――向井くん、イケメンなのにフラれてしまうんですね。
神成:そうなんです(笑)。向井くんは善良でまともな人間だし、お顔も可愛いんですよ。恋愛的に見なければ特に何か問題あるようには思えないんですが、恋愛に関しては女性から見て「こういうところが嫌!」とはっきり分かる一面があって。注目してほしいのは、冒頭で向井くんが元カノに言った「美和子のことずっと守ってあげたい」という言葉。ここで、向井くんは元カノにフラれてしまうんです。
――「守ってあげたい」って、確かに男性が言いがちなセリフですよね(笑)。なんとなく向井くんの元カノが引っかかってしまうのもわかります。
神成:わかっていただけて、よかった(笑)! やっぱり嫌ですよね。現代の女性は男性に対して、“男性らしさ”を求めていないじゃないですか。彼らにも早くそのことに気づいて、男性らしさから解放されてほしいという思いがあります。
――向井くんのセリフひとつで、彼がフラれる理由を読者に理解させるのがすごいです。
梶川:やっぱり社会に対して訴えたいテーマやみんなが抱えている悩みを扱う時は、エピソードは「あるある」とか「わかる!」と誰にでもピンとくるものになっているのが良いと思います。抽象的なエピソードだと、わからない人はわからないままになってしまうので。そういう意味で、2月に発売された『違国日記』の7巻は、男性社会の洗礼を受けた男子たちの苦しみがすごくわかりやすく描かれていると感じます。どんな人も「意味がわからなかった」にならない表現で、なるべくたくさんの方に伝わるように、というヤマシタ先生の気迫を感じました。
――先日ヤマシタ先生に取材させていただいた時に伺った「 『口うるさいマンガ』を描くことで誰かの心に波を立てることくらいはできるかも」という言葉に感動しました。 フィーヤンの作品はいつも、ワクワクとともに新たな気づきを与えてくれます。
梶川:弊社は共同担当の制度も取りながら、色んなスタッフも交えて作家さんと物語を作っているので、バラエティに富んだ作品を生み出せているのかなと思います。ぜひこれからも“ときめき”ながら作品を読んでいただきたいです!