「刃牙シリーズ」本部以蔵はなぜ強くなった? 板垣恵介が提示した“競技”と“武術”の違い
MMAも厳格に定められたルールに則って行われる競技
先日、かつてK-1で活躍したミスター・ストイックこと小比類巻貴之が運営するYouTubeチャンネル「KOHI CHANNEL」に、矢地祐介とのコラボがバズり、一躍時の人となったジークンドーの石井東吾氏とのスパーリング動画がアップされた。1Rはキックルール、1Rはジークンドールールで戦うというものだったのだが、これが実に興味深い内容だった。
まずキックルールからスタートしたスパーは、体格とキックルールの経験に勝る小比類巻が圧倒。石井氏の動きには、これまでYouTubeの動画で見せていた軽快さや鋭さは感じられず、パンチやキックにもいつものキレは見られず、被弾する場面も見受けられた。
だが、ジークンドールールになった2Rは一転、石井氏が本来の動きを取り戻す。目突き、喉、金的……狙いを絞ることなく正中線上の急所を常に習い続けるその動きに小比類巻は翻弄され、パンチを出すことすらおぼつかない。この動画が我々に教えてくれたことは、決められたルールの中で競い合う“競技”としての格闘技と、実戦を想定した”武術”の明白な違いである。
一定のルールがあるため競技としての性質、そして最低限の選手の安全性が担保され、それゆえにそのルールの中で勝つための戦略、戦術が整備されていく。
ここまで読んでいただければ、もっともノールールに近いとされ、その競技の頂点に立つと”地球上で最も強い”と認定されることの多い現代MMAですら、厳格に定められたルールに則って行われる競技であることが理解していただけるだろう。
力士相手に小指を取った武術家
そこで“本部以蔵”である。「刃牙シリーズ」において、ごく初期から登場している“武術家”であるが、その登場後、20年以上に渡って「本部は強いのか否か」という議論が交わされてきた非常に稀有なキャラクターである。
この本部、超実戦流柔術、本部流柔術の元締めとしていかにも強者感をギンギンに醸し出しまくりながら登場したものの、範馬勇次郎に敗北後、主にその武術全般への豊富な知識を買われ、『魁!!男塾』の富樫源次や『キン肉マン』のテリーマンに並ぶ、少年漫画界屈指の名解説者ポジションをゲット。
そして極め付けは、地上最大トーナメント1回戦での伝説の敗北である。
ありとあらゆる武術に精通しておきながら力士相手に小指を取るという、井上尚弥にテレフォンパンチを打つかの如き大失態を犯してしまったこの1戦が、本部の戦闘における評価を地に貶め、一方で解説者としての地位を揺るぎないものにした。だが、そのポジションを永久に保持し続けるかと思われていた本部が、死刑囚編で突如覚醒することになるとは、当時誰も予想しなかったことだろう。