乃木坂46 鈴木絢音、被写体としての魅力とは? カメラマン 新津保建秀が語る、写真集『光の角度』で記録したもの

鈴木絢音『光の角度』新津保建秀インタビュー

グラビア・写真集

――グラビアというワードが出ましたが、新津保さんはグラビアをどのように捉えていますか?

新津保:被写体や撮影者だけでなくて、その場にいた皆が経験した、そこに流れていた時間や、風の動きといった形のないものを、写真というメディウムの中に織り込んで見てもらうものかなと捉えています。

 自分が写真の仕事を始めて数年の頃、あるベテランの出版プロデューサーから「お前の写真は恋愛が足りない」と言われたことがあります。このとき大きな違和感を感じたけど、ここにグラビアといわれる写真の深層に横たわる価値観が集約されている気がしています。これまでのグラビア写真と呼ばれる多くのものは、撮影対象との疑似恋愛的な関係性や、性的関係の暗喩、もしくはそれにその時々で「おしゃれ」に見える記号を被せて、読者の関心に訴求することが主眼となっているように思います。

 ただ、あるカメラマンが20代の女性作家を撮ったとき、カメラマンが付けようとしたタイトルを、その作家が毅然と拒否したときや、他のカメラマンが専属モデルから異議申し立てされたとき、それまで撮影者や編集者のなかで当たり前となっていたものと、撮られる側との乖離がいよいよ大きくなってきたことを感じました。だから必ずしも疑似恋愛的な関係性の暗喩や、過剰な身体の露出や衣装のバリエーションは必要ないのかなあと。今は過渡期なのかなと考えています。

――なるほど。鈴木さんの写真集は「疑似恋愛」ではなく、「遠くから眺めている」というコンセプトじゃないと出ない「良さ」だと思います。

新津保:このとき「遠くから眺めている」というというよりはむしろ、「遠くにあるもの」をカメラを介して手探りで辿っていくような感じです。ここでいう「遠くにあるもの」とは、見ず知らずの土地が想起する物語とか、遠くの雲のフォルムとか、鈴木さんの周りの時間の流れとか、直接手に触れることができない形のないものたちです。

 一番心を砕いたのは旅行自体がスムースにいくような旅程の設計です。その中で、皆が旅を共にしながら偶然に出会ったものを写真のうちに収めていきました。帰国してからは、この時に感じたものと、先ほどもお伝えした、撮影を振り返った時に、過去と現在の行き来のなかで感じた、おだやかな普通の時間のかけがえのなさと儚さを自分の気持ちに正直に本のなかに収めていくことです。

――撮影は今年の1月です。ギリギリ海外に行けたのも良かったかもしれませんね。

新津保:旅先の開放感っていうのはあったと思います。本当に行けて良かった。今回は、プランニングとコンセプトの構想を作るのに力を入れたので、撮影自体は作業全体の2割くらいな気がします。ロケでの撮影は、絶対に外しちゃいけない一点が必ずあって、それが外れていなければ良い感じになるんですよね。撮る前に既に勝負は決まっているというか。なるべくシンプルな機材で、撮影自体は感覚的に撮りました。

――「外しちゃいけない一点」、解ります。

新津保:ロケでは、かつてゴーギャンがいたと言われている場所を訪ねたんですが、撮影の中でみたものの中で最も心に残っているのは、その場所に吹いていたおだやかな風の肌触りです。そのとき、眼前の風景のうちに過去の手触りが立ち上がってくるかのような経験でした。

――確かに景色の写真が入ることで、旅の時間がより立体的に見えますよね。

新津保:「絢音ちゃんが見たいのに余計な土の写真入れるなよ」って言われるかもとは思いましたけど(笑)。乃木坂46の運営委員長の今野義雄さんとは、彼がかつて担当していたアーティストのジャケットなどでご一緒したことがあります。数万人の人を想定した写真集だと、自分の作風とのバランスが難しいのですが、衣装の打ち合わせのときに今野さんと交わした会話のなかで、なんとなく方向性を掴んだ感じです。今野さんがOKを出してくれた構成案にはもっと抽象的なものが多く攻めた感じだったのですが、流石だなと思いました。

――先日のインタビュー取材で鈴木さんのお話を聞いていたときに、今回の写真集で活動への自信を強くしたという印象を受けました。

新津保: 自分は知り合った人から直接の撮影依頼があるとき、そのひとのなかでの転機の場合が多い気がしています。例えばある友人は東京大学に提出した博士論文をまとめて満をじして書籍の形で世に問う時に著者近影を、また実験的な電子音楽を作っていた音楽家の友人はピアノによる初めてのアルバムを発表する時にジャケット写真を依頼してくれました。

 今回は鈴木さんが10代からの芸能活動の中で考えたことを形にしたいのかなと思いながら撮影しました。10代から20代の人のときは自身で自分では気づけていない部分が良い形で写真なり映画なりの中に残すことができると、その人にとって良いのかなという気がしてます。その人が仕事のなかで曖昧に感じていたことが、他者の眼差しを通して見えてくるというか。もし今回それができていたのなら嬉しく思います。こうした写真集はみんなで一緒に作る作業だから、形になった後にお互いに何かしらの発見があるのが理想的ですよね。

――では最後に、写真集をもう持っている方、そしてこれから見てくださる方に、こういうふうに見てほしいというのはありますか?

新津保:鈴木さんが過去のブログに好きな本を挙げていたりすると思うので、実際に同じ本を読んでもらうことで写真集をより追体験できると思います。本が好きですっていう人もいっぱいいますけど、彼女は本当に好きですからね。

 本表紙(カバーを取った表紙の箇所)にもなっている本を読んでいるシーンは、僕のいちばんお気に入りのカットです。ここで鈴木さんの素に触れられたような、心が通じ合った気がしたんですよね。アイドル以前の鈴木さんが浮かび上がってきたというか、普段こんな感じなんだろうなというのが垣間見えた瞬間でした。

 それと、先ほど述べた「想像のなかの旅」を意識して見ていただけたら嬉しいです。写真集の中の、コロナの前の穏やかな世界に流れる時間の片鱗に触れてみてほしいです。

■書籍情報
鈴木絢音1st写真集『光の角度』
写真:新津保建秀
定価:2,200円(税込)
出版社:幻冬舎
公式サイト

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