『ようこそ実力至上主義の教室へ』が圧倒的に支持されるワケ ハイパー・メリトクラシー化した学校空間を描く巧みさ

『ようこそ実力至上主義の教室へ』人気の理由

 衣笠彰梧『ようこそ実力至上主義の教室へ』(MF文庫J)は2015年5月から刊行されてシリーズ累計430万部以上を突破、TVアニメは2017年7月~9月まで放送されたが、その後も人気は衰える気配がない。

このラノで読者投票数では3年連続1位

 宝島社から刊行されているラノベの年間ランキングを決めるムック『このライトノベルがすごい!』の読者投票数では、2019年から3年連続1位、それも10代~20代から圧倒的な支持を集めている。

 『このラノ』はラノベブロガーや書店員を中心とした「協力者票」と一般読者からの投票を合わせてランキングを決めているが、協力者は数十人、読者投票は数千ながら「尖った作品」「新作・準新作」をトップにしたい編集部の思惑から、協力者票で1位となった作品が全体のランキングで1位になるよう傾斜配分されている。

 したがって『よう実』は『このラノ』総合で1位になったことはない。

 だが一般的なラノベ読者の感覚に近い後者であって、そちらだけ見れば『よう実』は3年連続で1位の票数を得ているのだ。

 ほかにも学校読書調査でも2018年、19年調査の高2男子の「読んだ本」ランキング上位に食い込んでいる。

 ではいったいどんな作品なのか。

くせ者揃いの高校を舞台に、クラス対抗戦を描く

 舞台は全寮制の国立・高度育成高等学校。広大な学校の敷地内に街がまるごと用意され、生徒たちは卒業まで学校行事以外での敷地外への外出や、外部との連絡が許されない。

 最上位の成績を納めたAクラスの生徒には希望する就職、進学先にほぼ100%応える一方、B以下の生徒にはその特約はない。

 生徒たちは学校が課す「無人島でのサバイバル」などのゲーム的なルールに基づく特別試験を、AからDまでの4クラス対抗で争ってポイントを獲得、ポイント数の多寡によってクラスが変動する(DのポイントがCより多くなればDがCに、CがDになる)。

 ポイントは生徒が毎月使える金銭代わりに支給され、0になれば最低限の生活しかままならず、成績上位クラスとは激しい格差が生じる。その上、結果が残せない最底辺の生徒は退学させられる。

 主人公・綾小路清隆が配属されたのは性格や態度、成績に問題児揃いのDクラス。

 幼少期より父に強いられていた苛烈な環境から逃れるために入学した綾小路は、平穏な3年間を望んでいたが、彼の実力を見抜いた担任が望む自ら出世のために「卒業までにDクラスをAクラスにしろ。さもなくば退学だ」と脅され、また、父から学校に放たれた刺客たちが綾小路退学を狙って仕掛ける罠を回避するため、その非凡な実力を行使せざるをえなくなっていく。

デスゲーム、サバイバルもののラノベ版

 『賭博黙示録カイジ』をはじめとする福本伸行作品のような頭脳戦(集団戦)を描いた作品であり、中高生に10年以上人気の山田悠介や金沢伸明『王様ゲーム』、『SAO』の1巻のようなデスゲーム、サバイバルものの流れをラノベのフォーマットにうまく組み込んだ作品だ。

 デスゲームものは小学生向けの児童文庫でも針とら『絶望鬼ごっこ』、大久保開『生き残りゲーム ラストサバイバル』、藤ダリオ『絶体絶命ゲーム』などの人気作があり、日本の小中高生の大好物だが、対象年齢ごとに切り口や肉体的・心理的な残酷さは異なる。

 『よう実』はタイトルどおり「実力主義」、成果を挙げるものだけが生き残れるという競争社会――それも勉強ができればいいわけではなく、学力や運動能力に加えて発想の独創性、コミュニケーション能力、リーダーシップ、協調性、交渉力など多岐にわたる能力が求められるという、教育社会学者・本田由起が言うところの「ハイパー・メリトクラシー化」した学校空間を描く。

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