『吸血鬼ハンター”D”』菊地秀行、『転スラ』版元から絵本を出版? 気になるその内容とは

『吸血鬼ハンター”D”』菊地秀行の絵本とは
『吸血鬼ハンター“D”』
『吸血鬼ハンター“D”』

 かつて「ゲーム批評」を刊行し、今は伏瀬によるライトノベル『転生したらスライムだった件』(GCノベルズ)が大ヒットしているマイクロマガジン社から絵本が出た。ちょっとした驚きだったが、『城の少年』というタイトルの絵本の著者を見てさらに驚いた。『吸血鬼ハンター“D”』などで知られ、ハードなアクションや耽美なエロスが特徴の作家、菊地秀行だったからだ。絵本には何が描かれているのか?

 答えから先に言えば、『城の少年』の中で繰り広げられていたのは、菊地秀行ならではの幻想と怪奇にあふれた物語だった。

 丘のいただきに大きな城がそびえていて、10歳くらいの少年がひとりで暮らしていた。以前は王様や女王様がいて、夜には盛大な舞踏会が開かれていたが、ある日、誰もいなくなって少年だけが取り残された。城には誰も寄りつかず、旅人が近くの街道を通っても、少年を見かけると恐怖の声を上げて逃げてしまう。ごくたまに城まで誰かが来ることはあっても、近くで野営して中には入ろうとしない。その中からただひとり、踊り子の少女だけが大広間に来て踊っていた姿を見かけて、少年は関心を抱く。少女が去った後、少年は城の塔の屋根から村の方で上がる花火を見て、いてもたってもいられず村へと出向き、虐げられていた踊り子の少女を見つけて手をさしのべる。ボーイ・ミーツ・ガールの甘い香りが漂いそうな空気が、ひとりの老人からかけられた言葉でかき消される……。

 少年に起こっていた奇妙な出来事を指摘するその言葉と、老人のそば立って黒い服を着た美しい男の存在から、長い菊地秀行ファンは気づくだろう。もしかしたら、『城の少年』という物語の世界は、『吸血鬼ハンター“D”』に連なっているのではないかと。

 多作な菊地秀行にとっても代表的なシリーズで、現在も続いている『吸血鬼ハンター“D”』は、吸血鬼たちが跋扈するようになってから1万年ほど経った遠い未来が舞台。人の血を吸い、強大なパワーを振るう吸血鬼たちが貴族として君臨する世界を、吸血鬼と人間の間に生まれたダンピールのDが、吸血鬼を狩るハンターとして旅して歩き、行く先々で強敵を相手に戦いを繰り広げる。闇の支配者として人類を超越する力を持ち、高貴な立場を自認して尊大に振る舞う吸血鬼たちを相手に、ハンターがひるまずに挑み倒していくバトルシーンはスリリング。そこに、遠い未来ならではのテクノロジー描写も加わって、サイバーパンクとゴシックホラーとウエスタンが入り交じったような物語世界が現れる。

 Dは超絶的な美形にして凄腕のハンター。出生に秘密があって、人間からは疎まれ、吸血鬼たちからは裏切り者扱いされながら戦い続ける。人類にとっては災厄ともいえる強大な存在へと吸血鬼を押し上げつつ、対抗できる存在を生み出し、両者のバトルを通して強くあることの価値と、人間であることの大切さを問うた設定は、モンスター映画の人間vs吸血鬼のような単純な構図をドラマティックなものに変えた。平野耕太のコミック『HELLSING』にしても、吉田直のライトノベル『トリニティ・ブラッド』にしても、菊地秀行による吸血鬼イメージの革新があってこそのものなのかもしれない。

 『城の少年』の場合はさらに、人外の存在につきまとう寂寥感のようなものが感じられる。城にいた少年が知らないうちに陥っていた、永遠の時間という牢獄の中で、踊り子の少女が与えたものはとても大きかったに違いない。そうした癒しを得ることなく、孤独に戦い続ける黒い服の男は果たして何を思ったか。ページを閉じた後に考えてみたくなる。

 絵本は物語だけでは成り立たない。絵によって世界が描かれているから、読む人は繰り広げられている物語により深く引き込まれ、作中の登場人物たちと同じような時空を体感できる。『城の子供』で、菊地秀行が描いた幻想と怪奇だけに留まらない、切なさにも溢れた物語を絵にして見せてくれたのがNaffyだ。

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