鈴木保奈美が語る、ママ友への友情と信頼 「苦労して助け合ってきた戦友みたいな感覚」
法律事務所を舞台とした月9『SUITS/スーツ2』(フジテレビ系)では、弁護士・幸村チカを凛々しく演じた一方、柴咲コウ主演×遊川和彦脚本の話題作『35歳の少女』(日本テレビ系)では、交通事故で25年間眠り続けた娘の意識回復を信じてきた母を、氷のような無表情+白髪姿で演じ、衝撃を与えた鈴木保奈美。1月には岡田惠和脚本のコメディ映画『おとなの事情 スマホをのぞいたら』の公開も控える彼女の、一人の女性として、妻として、母としての本音が綴られ、意外な素顔が垣間見える初のエッセイ集が刊行された。
『婦人公論』の好評連載をまとめた『獅子座、A型、丙午。』(中央公論新社)である。刊行を機に、改めて考えたことや好きな本のこと、演じることと書くことの共通点などを伺った。
ママ友付き合いのことは、私はきちんと伝えたいと思った
――クールでスタイリッシュなイメージの強い鈴木保奈美さんですが、「恋ダンス」の練習をしたり、五本指靴下をはいたり、髪の傷みに悩んだり、ハイヒールが苦手だったり……エッセイを拝読して、なんだか勝手に親近感を抱いてしまいました。連載を始められたのは2017年ですが、そもそもどんなきっかけだったんでしょうか。
鈴木保奈美(以下 鈴木):2008年に、旧い友人の紹介で月刊誌『ミセス』で食べることに関するエッセイ(「ほなみ食堂」)をしばらく連載させていただいていて。それを読んでくださった『婦人公論』の編集の小林(裕子)さんから「うちで書きませんか」とご連絡をいただいたんです。その時点では、箇条書でファッションや仕事、食べ物、読書など、いろんな項目を挙げていただいていたんですが、かっちり決めずにやろうと。例えば食べ物だけなど、一つにテーマを限定してしまうと、私はプロじゃないので、すぐにネタが尽きるだろうと思い、「何も決めずとにかく何本か書いてみましょう」という感じのスタートでした。月2本の原稿ですが、楽しいので、よっぽど仕事が立て込んでいて覚えなきゃいけないことがたくさんある時期以外は、基本的にキリキリせずに書けています。たぶん書くことでリフレッシュできているんでしょうね。
――『獅子座、A型、丙午。』というタイトルは、端的で非常にイメージしやすいですね。
鈴木:そうなんです。私そのものを端的に言い表している言葉だなあと思いまして(笑)。獅子座って、人の中心になるのが好きで、目立ちたがり屋でお山の大将で。丙午も気が強いとよく言われて。だけど、A型というこまごまとした妙な几帳面さ、気ぃ遣いの部分がある。獅子座と丙午だけだと強すぎるけど、「A型もあるんです……」というのが、まさに自分だなあという気がしています。
――拝読してすぐに感じたのは、内容の歯切れの良さに加えて、文体がすごくリズミカルで心地良いことです。セリフを口にする女優さんならではのリズム感なのかなと思ったんですが、何か心がけていることはあったのでしょうか。
鈴木:心がけているわけではないですが、それはあるかもしれないですね。セリフでも言いづらいセリフと言いやすいセリフとがありますし、文体のリズムは結構気にします。だから、ものすごく何度も読み返しますし、リズムが気になるところは直すかな。
――子どもの頃から読書家だったそうですが、影響を受けた作家さんなどはいるんですか。
鈴木:私、小学3年生くらいのとき、獅子文六の『悦ちゃん』を文庫で読んで。親戚のおじさんのうちの本棚にあったので、「面白そう」と思って持ってきたんですね。旧仮名遣いもいっぱいある本だったんですけど、それが本当に面白くて。今気づきましたけど、その影響は受けているのかもしれない。それが私の原点かもしれない。小学校の頃は『赤毛のアン』などの外国文学を読んだり、学校の図書館のシャーロックホームズを全部読んだりしていたんですが、高校のときに村上龍さんの『コインロッカー・ベイビーズ』にハマって、そこから村上龍さんと村上春樹さんを片っ端から読んで、大学時代はよしもとばなな(現在は吉本ばなな)さんを追っかけて。好きな本に出合うと、「この人、どこから影響を受けたのかな」と知りたくなって、ルーツをさかのぼったり繋がりを探したりする読み方をしてきましたね。
――エッセイではお子さんもたくさん登場しますが、末っ子のお嬢さんのスニーカーがドロドロになったお話は、なかなか衝撃でした。本人が悪いわけでなくとも、まず反射的に怒ってしまいそうだし、怒った後には可哀想になって新しいモノを買ってしまいそうです。そこで何段階にも理性が働いているのは凄いな、と。
鈴木:いや、そこに至るまでに何度も反射的に怒ったり、怒った後に買ったりという失敗を繰り返してきているからですよ(笑)。もう何十回も失敗してきて、その都度「親になれないなあ……」と反省してきて、やっとあのとき娘と会話をしながら自分自身に言い聞かせるように「私、できてる、できてる……」と思っていたんです(笑)。
――ご家族も読んでいらっしゃるんですか。鈴木:『婦人公論』はいつも1冊送っていただいているので、そのへんに置いておくと、娘たちはいつの間にか読んでいたりするんですよ。「ああ、あのときの話だね」とか言ってますけど(笑)。夫はたぶん読んでないと思いますね。私はこっそりやっているから(笑)。
――いわゆる「ママ友」とのお話もたくさん出てきますが、「〇〇ちゃんのママ」とは言わず、下の名前で呼び合うのは、素敵ですし、リアルな関係性だと思いました。メディアでは「ママ友」というと、面倒くささ、怖さ、ネガティブな話ばかりが取り上げられがちで、リアルな世界と乖離しているなと感じることがよくあります。
鈴木:ママ友付き合いのことは、私はきちんと伝えたいと思った点でもあるんですよ。子育てって、誰にとっても経験のない、どうしたら良いかわからない大変なことで、同じように苦労して助け合ってきた戦友みたいな感覚があるんです。これは、お仕事だけやっていたら得られなかった友情だなと思うんですよね。仕事場よりも、ある意味いちばんみっともない姿――子どものことで泣いたり怒ったりするのをさらけ出して、共有している人間関係なので、頼りになるし、大事な存在だし。「ママ」という仮面をかぶった名札だけじゃなく、それぞれの女性として生きてきた人生があって、付き合えば付き合うほどにそうしたものが見えてくるのも面白いし、これからトシをとっても一人の人間として付き合っていけると思う関係なんですよね。どうしてもメディアって、「ママ」とか「サラリーマン」「〇〇女子」「〇〇男子」「〇〇オタク」とかいう言葉で、カテゴライズして十把一絡げにしがちですけど、一人ひとり違うし一人ひとり大事だということは、私が実際に友達と関係性を深めていく中で実感してきたことなんです。