宝島社「付録本」ヒットの秘訣とは? 編集者に訊く、流通網を生かした販売戦略

宝島社編集者に訊く「付録本」ヒットの秘訣

編集者がものづくりに携わるということ

ーー東洋経済オンラインの記事(https://toyokeizai.net/articles/-/17463?page=2)で、商品選び、デザイン、素材の選択まで編集者が担当するとありました。付録本を企画・販売するうえで気をつけていること、大切なことはありますか?

佐藤:仰るように、どういうアイテムにしようかとか、どういうデザイン、素材がいいかというのは基本的には担当者がやっています。でも私一人ではもちろん決められないので、一緒に本を作るスタッフや読者層に近い仕事仲間や友人たちなどの意見を広く聞いて、限られたコストの中で読者に喜んで使ってもらえそうなものにしていきます。もちろんブランド側の監修も入るので、様々な条件をクリアするよう調整しています。

ーー編集者の仕事としてはかなり異質だと思いました。企画は付録から考えるのか、それとも誌面から考えるのか、どちらなんでしょうか?

佐藤:「人気文具付録シリーズ」に関しては付録から考えます。付録を主役にした商品群だと思うので、日常使いしやすい便利なアイテムか、またどんなデザインだったら欲しいと思ってもらえるか、という二つの視点で作っています。今まで料理本やダイエット本など、一般実用書ばかり作ってきたので、アプローチの仕方が違う。全然違うことを今やっているなという感覚です。

ーー付録本を作るという仕事はプロダクトデザイナーの目線に近いと思いました。従来の編集者像とは違う感じで興味深いです。

佐藤:そうですね。これまでの本の編集とはまたちょっと違う目線で作っている気がします。『純喫茶ぺんてるへようこそ』は、2019年の文具女子博で「純喫茶ぺんてる」というコンセプトでブースを作られていて、そこに並んでいたこのクリームソーダ柄の限定ギフトボックスがすごくかわいかったので、このコンセプトの付録を是非やりたい!と思ったんです。この柄をうまく生かしたアイテムができないかという発想が出発点です。最初に出したクレパス柄のフラットペンケースがよく売れていましたし、筆記具メーカーさんとの相性もよいと思ったので、この素材を変えて、「純喫茶ぺんてる」に合う感じにできないかというところから考えていきました。この商品は最後まで、素材を何にするか悩んでリテイクを重ねましたね。

 最初のサンプルはブランド側に見せられないくらい微妙な感じで(笑)、付録業者にはいくつか生地やパーツを変えたサンプルを作ってもらったりしました。最終的に今の生地に変えてようやく落ち着いたんですけど、決まるまではバラエティショップを徘徊したのを覚えています。色々な素材を見て、良さそうな生地を見つけて、「この生地で作ってください!」という感じでようやく着地っていう。

ーー編集者が企画のアイデアを求めて、書店に向かうように、佐藤さんは実際にバラエティショップや文房具店をまわってインスピレーション得るんですね。企画を立てる時は他の部署の雑誌付録とかもヒアリングされるんですか?

佐藤:そうですね。やはり社内にいると、今月はこれが売れているらしい、みたいなことが聞こえてきますし、付録の情報がいっぱい入ってくるので、今流行っているものと、文具が好きな人が好みそうなブランドやコンセプトをうまくマッチングできたらいいかなと思っています。

コンテンツメーカーとしての宝島社

ーー雑誌やムックという媒体が厳しい状況にはあることは、出版業界の共通認識だと思います。そういった中で「人気文具付録シリーズ」のような付録本は売れている。雑誌の役割が従来とは変わってきている印象を受けます。

佐藤:そうですね。今まさに仰っていただいたように、本と付録のバランスを変えたことで、新しい商品ができたのだと思います。付録をはじめ、こういった新しいチャレンジを続けて売上が伸びている商品は多数あり、私たちは出版が厳しいとは考えていません。ページが少なくても、ブランド側が伝えたいことや商品の魅力を最大限に表現していきたいです。とはいえ読者は付録を使いたくて買ってくださっていると思うので、その付録がブランドの魅力を引き出せているか、本当に使いやすく実用的かもすごく大切ですよね。本と付録の両方を活かせる商品を目指せたらと思います。

ーーー付録本といえば宝島社のイメージが強いですが、宝島社における付録本の位置付けについてお聞かせいただけますか?

広報課・川越桃子(以下、川越):宝島社は創業時から「我々はコンテンツメーカーである」とのスタンスです。テキストやビジュアルで伝える誌面企画としてのコンテンツ力と、付録に代表するモノ作りとしてのコンテンツ力、それらを活かし、出版流通でいかに魅力的な商品を提供するかを考えています。

 一番最初に『sweet』と『smart』に付録が付き始めて、2004年からすべての雑誌に戦略的に毎号つけています。最初は「雑誌」+「付録」だったのが、次第にアパレルブランドから始まり、食品雑貨や美容ブランドなどさまざまなブランドを深掘りする形でブランドブックになりました。「情報」+「もの」でより良く伝えるという形です。

 書店はもちろんのこと、コンビニにも付録本を置いてもらっていますが、その2つを合わせると、全国に約65,000店ぐらいあるんですね。それはつまり全国各地どこにでも、商品を行き渡らせることができる強みがあるということ。商品を求めて訪れた方はもちろん、偶然店頭で出会って手に取っていただける機会が多いというのが弊社の商品のメリットになっていると思います。

 宝島社はもともと出版社ではなくて、地方自治体のコンサルティングからスタートしています。後発的に出版業界に参入したことで、出版の流通網の強みを理解していたんです。この素晴らしい出版流通網で何をするか、どういう事業ができるかを常に考えているからこそ、80年代、すでにグッズを発売していたし、カセットテープやDVDの付録も先駆けて販売していました。

ーー宝島社の付録本は、流通に着目して、そこから何を発信していこうかという発想で作られていたということですね。

川越:はい、こんなに素晴らしい流通網をどう活かすのかという考え方です。出版業界は斜陽産業だという見方をする業界の人は少なくありませんが、私たちは真逆の発想で捉えています。こんなにいろいろなお客さんが出入りする売り場はないし、書店数が減っていると言っても、これだけ全国に店舗数がある業態はなかなかありません。

 またブランドブックでは、ブランドからの希望で、誌面を英語などブランドの母国語に翻訳したものを本国のスタッフに配布したり、販売したこともありました。

 ブランドのもつ歴史や商品へのこだわりなどを編集のプロが取材し構成することで、客観的にその魅力を伝えることができるため、喜んでいただいています。

ーー今コンビニで見かけるファッション誌の付録には、かなり大きいサイズのリュックサックやキャンプ用品などがありますよね。

川越:2018年からですかね。実はコンビニにある付録本はパッケージが透明なものを置いているんです。それには理由がありまして、コンビニで扱っているのは大半が本以外のモノで、そういったモノを求めて来られる方にどうアプローチするかという発想が起点になっているんです。だったらモノ(付録)が良く見えた方が訴求力が強くなるのではということで、透明なパッケージを採用しています。

ーー判型や販売される場所も考えて作られているということですね。付録本にも流行があったりするのですか。

川越:たとえば去年でいうと、ステンレスボトルとか、小さめの水筒みたいなのが流行っていて、それが今はスープジャーになったりとか。あと、今年でいうとレジ袋が有料化したということで、エコバッグが大変人気です。トレンドはもちろん世の中の状況に合ったものを提供できるよう、編集部は日々企画を考えています。コロナでテレワークが急速に浸透してからは、加湿器や抗菌素材の商品が出てきました。付録はその時代を反映する鏡と言えるかもしれません。

ーー今後の展望があれば教えてください。

佐藤:持っていると気分が上がるアイテムを作っていけたらと思っています。この「人気文具付録シリーズ」をうまく育てていきたい気持ちがありますね。今後は国内のブランドだけでなく、海外の文具ブランドともご一緒してみたいです。

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