台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タンはなぜ“天才”と称される? デジタル民主主義を先導する手腕

オードリー・タン、天才と呼ばれる理由

 「ネットを通じてコミュニケーションを生み出し相互理解を促進する」「世界の片隅で始まったことをネットを通じて有用なものに発展させていく」ことが一貫したテーマだと
語るタンならではの哲学だが、本来のネットは個として独立する人々がその肩書きや立場によらず、等しく同じテーマに対して議論を交わし、情報を発信して新しい価値や成果を創造していくことを目指したもの。誰もが参加できるオープンでありフラットな場であるというネットの思想を、政治という社会の営みの場で具現化する申し子、それがオードリー・タンの実像だと言っても過言ではない。

 「誰もが同じ考えを持っていれば話し合う必要もない。誤解や考えのギャップがあるから意思疎通が始まる」「断絶とは私にとっては多様性だ。一つのテーマに対する感じ方がそれぞれ異なることは健全で、同じなら全体主義だ」と言い切るところなど、デジタル民主主義の先導者としての風格すら漂う。中国と比して「台湾の民主化を誇りに思う」との言葉にも重みがある。

 特筆すべきは、弱者やマイノリティに寄り添う姿勢を常に持っていることだ。タン自身が性別適合手術を受けたトランスジェンダーであり、学校で疎外感を味わった経験に根差した部分はあるだろう。だが、「あらゆるものには欠けた部分があり、欠けた部分こそ光の入り口だ」との詩を引用しつつ、「ここで言う光とは新たなコミュニケーションが始まるチャンスのこと」と、臆せずに前を向く強靭な精神力と馬力をも兼ね備えるのがタンの真骨頂。単なる付和雷同や意固地な反発ではない。

 インタビューに答えて「保守的な無政府主義者」と嘯くオードリー・タン。だが、その姿からは、新しい時代のあるべき民主主義の形が見て取れる。


日本経済新聞2017「台湾の天才プログラマー 多様性が育てた変革の徒」
東洋経済2020「台湾の『38歳』デジタル大臣から見た日本の弱点」
AFP2020「台湾IT相、30代でトランスジェンダーの『無政府主義者』唐鳳氏独占取材」
ほか、各種インタビュー、論評を参照した。

■井上トシユキ
1964年生まれ。同志社大学卒業後、会社員を経てジャーナリスト。IT、ネットを
皮切りに政治、芸能まで幅広い分野で各種メディアへの寄稿、出演多数。

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