『BANANA FISH』アッシュと英二の“魂に触れる”関係性ーー少女マンガとしての魅力を考察
アッシュと英二のように「魂に触れる」関係
そう言われてみると、ずっと私は「魂の触れ合うような関係」が、友人や恋人に求める条件でした。1を伝えると10を理解してくれるような、かといって奢ることなく「もっと知ろう」と耳を傾け合うような。まあよく考えると、大人のいい年になるまで人の話を傾聴する家族も友人もいなかったってことなんですけどね。昔は、とにかく「わかってわかって! 私のことわかってーーえええぇぇぇ!」と叫んでいたような気がします。「ソウルメイト」が欲しかった。
『BANANA FISH』は序盤、「バナナフィッシュとはなんだ?」という謎を追うハード・ボイルドサスペンスでした。その謎が解けてからは、ゆるやかにアッシュと英二の絆を描くことに力が注がれていきます。
作者の吉田秋生氏は、多くの人が抱える痛みやコンプレックスを描く作家です。『カリフォルニア物語』では、兄に対するコンプレックスに苛まれ、彼を縛り付けていたものから逃げだして泥沼のような場所で活き活きと生きる少年を描きました。
『ラヴァーズ・キス』では、傷ついた男女が、それこそ魂が惹かれ合い、強い絆で結ばれる物語でした。『海街diary』は、生と死から家族とはなんだ、ということを考えていたと思います。
人の日常を描き、その中での苦しみや成長を描くことが多かったのですが、『BANANA FISH』『夜叉』『イヴの眠り』と、派手なアクションものが続きました。もちろん、初期にはファンタジーも描いていらっしゃいますし、多様なジャンルを描ける作家であることは間違いないのですが。
そして、きってのハードボイルド作品であるはずの『BANANA FISH』も、実は描いていたのは繊細な心だったのですね。
少女マンガは、心の機微を描きます。そのためそれを読んで育った読者は、表面ではなく、物事の真理を大切にする心が養われるのかもしれません。
■和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女マンガ解説、ライター、編集。大学卒論で「少女漫画の女性像」を執筆し、マンガ研究のおもしろさを知る。東京マンガレビュアーズレビュアー。視覚障害者による文字起こしサービスや監修を行う合同会社ブラインドライターズ(http://blindwriters.co.jp/)代表。
■書籍情報
『BANANA FISH』(小学館文庫/フラワーコミックス)
著者:吉田秋生
出版社:小学館