『SLAM DUNK』安西先生の言葉はなぜ突き刺さる? 「信じること」を教えた名コーチの手腕

『SLAM DUNK』安西先生の指導法

 だが、安西先生は最初からこのやり方を取っていたわけではない。かつて大学バスケの監督だった安西先生は、現在とは真逆のスパルタコーチだった。当時、安西先生のもとには1人、身体的にも能力的にも高いポテンシャルを持つ選手・谷沢がいた。谷沢を日本一にするためにより厳しく接していたが、それに反発した谷沢は、何も言わずにアメリカ留学してしまう。だが、結局アメリカでもうまくいかなかった谷沢は、現地の事故で帰らぬ人となる。この出来事が心のしこりとなり、安西先生は大学界から身を引く。

『SLAM DUNK 完全版 #2』

 時を経て現在。安西先生のもとに、ある日流川が訪ねてくる。流川はもっと強くなるためのアメリカ留学の希望を伝えるが、安西先生は反対する。そしてこう告げる。

「流川君、君の意志は信じている」
「とりあえず日本一の高校生になりなさい」

 何も言わずに渡米した谷沢と、安西先生のもとを訪ねた流川。そして、「君の意志を信じている」という言葉は、安西先生が谷沢に言えなかった言葉でもある。

 その言葉を聞いた流川は「よろしく ご指導ご鞭撻のほど…」と頭を下げた。

 湘北バスケ部で「信じている」と伝え続けてきた安西先生。それは、無名で弱小の湘北を育てるだけではなく、かつて築けなかった信頼の応酬を、安西先生自身に与えるものでもあったのだ。

■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。満島エリオ
Twitter(@erio0129

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