福満しげゆきが新たなファンを獲得し続ける理由 妻の描き方に見る、大きな愛情
最後に、『ヒロインズ』に登場するメッセージを紹介して〆としたい。ここで取り上げるのは、アメリカの作家、ジューナ・バーンズに周囲から寄せられた対照的なアドバイスである。バーンズは、ある女性について作中でどのように描写するか迷っていた。まず示されるのは、ノーベル文学賞作家であり、二十世紀アメリカ文学界の巨人、T.S.エリオットのアドバイスである。「史実の正確さなんかについてためらうのはやめにして、彼女を利用したまえ」と彼は言う。もう一人の助言者は、神経を病んで精神病棟で過ごし、その経験を元にを描いた女性作家、エミリー・コールマンである。彼女の発言は素晴らしく印象的で胸を打つ。
「その人のことを、できる限り自分から切り離して考えなさい。聖者でも狂女でもなく、才能あるひとりの女性として。この世界にたったひとり、必死に生きている人として」
私が福満作品を通して感じるのはこの発言である。少なくとも福満しげゆきは、妻を作品を際立たせるための道具立てとして利用してはいない。むしろ、妻をどう描くかが作品そのもの、ひょっとすると人生そのものになっているのだ。まさしく妻はこのように描かれている。
「聖者でも狂女でもなく、才能あるひとりの女性として。この世界にたったひとり、必死に生きている人として」
■野村玲央
1993年生。ライター。人文学やポップ音楽に関心があります。仕事の依頼等こちらからお願いします。→nmrreo@gmail.com
twitter:@LeoLeonni
■書籍情報
『妻と僕の小規模な育児(1)』
福満しげゆき 著
価格:本体720円+税
出版社:講談社
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