『梨泰院クラス』原作の登場人物はドラマとどう違う? 日本語版『六本木クラス』ならではの面白さ
原作とドラマの違いは?
ドラマでファンになった人にも、ドラマ未視聴の人にもぜひ両方触れてもらいたいのだが、原作とドラマで違うところは? というのが当然気になるはずだ。
キャラクターの配置や造形、ストーリーやセリフについては、ドラマはかなり原作版から持ってきている。タンバムスタッフになるトニーとその家族の物語は原作にはないなど、ドラマにあって原作にない要素はいくつかあるものの、原作にはあるがドラマで使っていないエピソードはほとんどない。
「現実にこんなやついる?」というセロイのいがぐり頭を主演のパク・ソジュンが再現していることに始まり、料理がヘタなホールスタッフのヒョニに対して「クビか?」と思ったらセロイがなんと給料を倍出すから努力しろと語る胸熱なシーン、泥酔したスアがセロイにキスしようとするのをイソがギリギリで止めて「強制わいせつ罪ですよ?」と言うイソのやべえやつぶりと焼きもちが噴出しているシーンなど、ドラマで印象的な場面や名台詞の多くは原作にある。
じゃあドラマを観たから原作読まなくていいか、と早計しないでほしい。
ドラマで印象的なトランスジェンダーのアウティングをめぐる事件や、クライマックスの誘拐事件でのカーチェイスシーンの有無など、大きな変更点も一部にある。それは読んでのお楽しみだ。
もうひとつ大きく違うのは、スアの造形だ。ドラマ版では演じるクォン・ナラの正統派美女っぷりが際立っていて(女優の育ちがよすぎて?)、原作版ほどの屈折を感じさせない。決して悪い意味ではなく、オモテに出てこないけれども内に抱えている感がドラマ版では強く、原作版では、セロイを裏切ったこと、セロイにある種の嫉妬や羨望にも似た感情を抱いていることが外に滲み出ている感じが強くなっている。
スアが開くお店は原作ではバーなのだが、ドラマ版ではこじゃれたレストランなのが象徴的な違いになっている(ちなみにドラマではパク・ボゴム演じるイケメンシェフがスアの店に面接に来るが、原作ではイケメンシェフの面接シーンなどない)。
『梨泰院クラス』の魅力のひとつはセロイ、スア、イソの三角関係だと言ったが、そういう意味でスアの人物造形の違いは、かなり作品から受ける印象を違うものにしている。
そんなわけで、ドラマにハマった人にはぜひマンガ版も楽しんでもらいたいと思うし、ドラマ観てないんだよねという人はドラマを観るより1話は短いマンガから入って、「待てば無料」で23時間に1話読むのが待てなくなるくらいハマってきたらドラマを観る、でもいいだろう。
一昔前までは韓国ドラマはCSの専門チャンネルを契約していないと最新の話題作が日本語ではすぐには観られなかったが、今はNetflixやVLIVE、YouTubeなどでほぼタイムラグなく観られるものも増えてきている。
また、やはり一昔前までは人気ドラマの原作がウェブトゥーンだとわかっていても原作を日本語で読むことができなかったが、今ではピッコマやLINEマンガなどでかなり読める。
「観てから読むか、読んでから観るか」とは80年代に角川映画に使われたキャッチコピーだが、韓国マンガ/ドラマもそうした楽しみができる時代になってきた。
2020年、21年にはウェブトゥーン原作のアニメやドラマとしてこのあと『ゴッド・オブ・ハイスクール』『メモリスト』『sweet home』などの放送・配信が控えているから、ぜひマンガアプリで「予習」をして話題作に備え、『梨泰院クラス』並みにヒットしたら「前から原作読んでたんだけど」と周囲の人間に対してドヤりたいところだ(えっ?)。
■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。