『約束のネバーランド』エマは“絶望の中の希望”だ ジャンプヒーローとしての新しさに迫る

『約ネバ』エマはヒーロー像を体現する

 先日、『週刊少年ジャンプ』で人気を集めていた『約束のネバーランド』が連載の最終回を迎えた。『約束のネバーランド』は、原作を白井カイウ、作画を出水ぽすかが担当し、2016年8月から約4年間連載された。同時期に連載を開始した『鬼滅の刃』とともに『週刊少年ジャンプ』の連載として注目され続けた作品であった。最終回を迎えた今、改めて『約束のネバーランド』の魅力について考えてみたい。

 主人公は、11歳の女の子・エマ。彼女が住むのは「グレイス=フィールドハウス」。そこでは0歳児から12歳までの男女38人が共同生活している。みな孤児であり、12歳になる前にいつか里親から“お迎え”がくる……と教えられて育った。しかしある日、醜悪な姿をした鬼の存在を知り、鬼が“お迎え”の子を食べていたこと、自分たちは鬼の「食用児」として育てられていることがわかる。

 身体能力の優れたエマ、才気あふれるノーマン、知識が豊富なレイは、その才能でさらに様々な事実を知る。そして全員でこの「人間飼育場」を脱走することを決意。その過程でこの世には、鬼の世界と人間の世界があることを知るのだった。

 少女であり主人公であるエマこそが、『約束のネバーランド』が『週刊少年ジャンプ』で連載される理由であり、象徴であると考え、以下で語ることにする。

※以下ネタバレあり

 この物語においてエマが、『SLAM DUNK』の桜木花道、『ドラゴンボール』の悟空、『ONE PIECE』のルフィであることは間違いない。ジャンプの大きな柱に、ヒーロー像というものがある。エマは、少女でありながらそのヒーロー像の条件を満たす存在として描かれている。しかし、彼女が新しいヒーローに見えるのは何も性別の問題だけではない。エマは、「おバカ」ではないヒーローだからである。

 先述した名ヒーローたちはジャンプのテーマである「友情」「努力」「勝利」を体現しているが、彼ら自身はいい意味で純粋な「おバカキャラ」から始まっている。そのテーマを信じて疑わない、生まれながらに正義を持つ彼らが、なぜ困難に向かうのか。それは愛すべき「おバカ」だからである。困難を乗り越えられるという根拠のない直感があるから、無鉄砲でいられるし楽観的でいられる。だからこそ物語の中で多くを学び、成長し、勝利していく様が描かれてヒーローになっていくのだ。

 エマも、無鉄砲で命知らずではあるが、彼女は「おバカ」ではない。毎日超難問のテストをクリアしている優良児という設定からもわかる通り、エマは並外れた身体能力を持つ頭脳派である。天真爛漫でムードメーカーな一面もありながら、彼女は最初からはるか先にあるであろう困難を見通すことができる。

 自分の理想がいかに実現不可能か、どれだけ危険なことかが予測できるとき、誰だってその理想の未来に恐怖し慎重になってしまう。しかしエマは、名ヒーローたちと同じ“勇気”の持ち主だ。「うるせえ!!行こう!!!!」と言って人を動かしたルフィのように、「やってみなきゃわからない!」というのが彼女の口癖。

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