『チェンソーマン』を読むと頭のネジがぶっとんだ感覚になるーーショッキングな展開に見る、藤本タツキの胆力

『チェンソーマン』著者・藤本タツキの胆力

 その後、クァンシはデンジたちに襲いかかり、圧倒的な力で蹴散らすのだが、仲間の魔人2人をデンジの師匠にあたる特異4課の隊長・岸辺が拘束したことで、クァンシは戦いをやめて、窓際のテーブルに岸辺と腰掛ける。岸辺は口ではクァンシを連行すると言うのだが、会話を(おそらく悪魔の力で)盗聴しているマキマに知られないように「言う通りにすれば逃す 安全は保証する」「マキマを殺す 協力するなら全てを教える」というメモをみせる。

 そこにアメリカの三兄弟の1人が参戦し銃で撃とうとしたことで膠着状態が解けて、戦いはより激化していく。

 登場人物が一気に増えて、デンジを護衛するデビルハンターたち、アメリカから来た殺し屋三兄弟、中国から来たクァンシ一味、ドイツから来た「人形の悪魔」の力を操るサンタクロースと思しき老人、トーリカと師匠の5グループの戦いとなっていくのだが、公安退魔4課の中でも岸辺はクァンシを逃し、マキマを殺そうとしているようで、それぞれの思惑はてんでバラバラである。

 登場したデビルハンターの能力や各キャラクターの説明がないまま、刻々と変化していく状況だけが描写されていくため、途中から何が起きているのかわからなくなっていくのだが、おそらく現場の混沌とした状況、それ自体を読者が体感できるように演出されているのだろう。

 これは、画力と構成力に根ざした描写力によっぽどの自信がないとできない芸当だが、それをしれっとやってのける藤本タツキの胆力には驚嘆する。

 一気に登場した新キャラたちがあっけなく殺される様子を見ていると、生死に対する感覚がだんだん麻痺していき、デンジのように頭のネジがぶっとんだ感覚になっていく。この、ショックが大きすぎて言葉にならない乾いた感触こそが『チェンソーマン』の真骨頂だ。読めば読むほど、コベニのように表情が引きつっていく凄まじい漫画である。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『チェンソーマン』既刊7巻
著者:藤本タツキ
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/chainsaw.html

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