悪役から読む『鬼滅の刃』の魅力 煉󠄁獄杏寿郎と戦った、上弦の鬼・猗窩座の生き様

悪役から読む『鬼滅の刃』の魅力

猗窩座という悪がもたらしたもの

『鬼滅の刃』18巻

 これは、先に述べた童磨や獪岳とはかなり違うタイプの悪の魅力を持ったキャラクターだといえるだろう。いずれにせよ読者は、そののち18巻で、かつて人の温もりを知っていたはずの彼がなにゆえ鬼になったかを知ることになる。そして、煉󠄁獄の想いを受け継いだ炭治郎が、今度は真っ向から猗窩座に戦いを挑む勇姿を見ることになるだろう(その手に握られている日輪刀には煉󠄁獄の愛剣の鍔が取り付けられており、隣には、最初に炭治郎を鬼殺隊に導いた冨岡義勇という心強い仲間もいる)。

 さて、この戦いの結末をここで書くつもりはないが、これだけはいっておきたい。炭治郎が鬼殺隊の剣士として大きく成長したのは、煉󠄁獄が命を賭して“心の燃やし方”を見せてくれたからであり、それは猗窩座という“至高の領域”を求め続けた悪の存在あってのことだった。そう、本稿の冒頭で書いた悪と善の関係性に話を戻せば、猗窩座という悪のキャラが立っていたからこそ、その好敵手である煉󠄁獄杏寿郎という善のキャラも立ったのだ。猗窩座――敵ながら、天晴(あっぱれ)な鬼である。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。@kazzshi69

■書籍情報
『鬼滅の刃(8)』
吾峠呼世晴 著
価格:本体400円+税
出版社:集英社
公式サイト

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