YOASOBI「ハルジオン」原作者・橋爪駿輝が語る、音楽と文学の融合「文章が別の形へ昇華されていくのはエキサイティング」

橋爪駿輝、文学と音楽の垣根越える取り組み

『さよならですべて歌える』と「それでも、ハッピーエンド」の繋がり

――橋爪さんは新潮社からも新作『さよならですべて歌える』が発売予定とのこと。この小説は今回の「それでも、ハッピーエンド」と裏表のような設定になっています。カップルの一方が広告代理店に勤めていて、もう片方は「それでも、ハッピーエンド」では女性側がイラスト、『さよならですべて歌える』では男性側が音楽をやっている。どちらもクリエイティブ志向です。短編と単行本なので長さは違いますが、男女の意識のズレがモチーフになっている点が共通します。また、今回の短編のあとがき(電子書籍版「それでも、ハッピーエンド」のみに収録)に出てくる「ゲットー」という店が、新作小説にも登場しますね。

橋爪:気がつかれましたか(笑)。もともと新潮社の雑誌で連載していた『さよならですべて歌える』のほうを早く書き始めました。それが本になると決まった時期に今回のプロジェクトの話をいただきました。

――新作ではバンドマンの主人公とつきあう女性が小説家になる夢を持っていたという設定があって、村上龍さんや吉田修一さんの名前が出てくるところがあります。

橋爪:大好きな小説家のお二人っていう感じですね。

――そういえば「ハルジオン」と「それでも、ハッピーエンド」の一番の違いは、曲のほうは女性の視点で一貫しているのに対し、原作は女性視点の本文のあとに男性視点のあとがきが付けられていることでしょう。このあとがきは村上さんの……。

橋爪:……『限りなく透明に近いブルー』。ははは。おわかりになりましたか。村上龍さんと吉田修一さんからは、かなり影響を受けていると思います。

――『さよならですべて歌える』は、とにかく誰かに届けたいというクリエイターの気持ちをよくとらえていて、胸を打つ内容になっていると思います。

橋爪:この小説を書き始めた時、僕は大スランプで、小説で何を書いていいのかもうわからないし、書きあげたものもつまらなくてボツにするということが1年くらい続いていたんです。なのに、まわりではバンバン素晴らしい作品が発表されるし、音楽のほうではKing Gnuさんが頭角を現すとか、本当に世の中は才能だらけだと実感しました。そういう時、書けない自分の気持ちをそのまま書くとどうなるだろう、と取り組んだのが『さよならですべて歌える』でした。思い出深いというか、自分なりに思い入れのある作品です。

――スランプの後に書いたものではあっても、新作は、橋爪さんの小説本来の軽やかさを失っていないのがいいなと思いました。

橋爪:そう言っていただけてよかったです。

――これまでの作品を読んでも計算された隙間やテンポ感があって、音楽的な文章だと思います。

橋爪:嬉しいです。先ほども音楽と文学の垣根、といった話をしましたけど、音楽の歌詞も文学だなと思っています。歌詞を読むのは大好きですし、それが小説の文章にあらわれているのかなと思います。

――ご自身では歌詞を書いたり、曲を作ったりは。

橋爪:歌詞はいつか書いてみたいですけど、演奏はできないので……。

――今回のことをきっかけに歌詞はありうるのでは。

橋爪:お仕事、待ってます(笑)。チャレンジしたいですね、歌詞はとても。

――今後のご予定は。

橋爪:今、次の小説を書いている最中です。また、まだ名前は出せませんが、ミュージックビデオにかかわる仕事をいただいていまして。

――音楽関係の仕事が続くんですね。

橋爪:ありがたいことに。こうやっていろんな垣根を越えてものを作れるのは、非常にいいなと思います。僕の小説は、音楽からもとても影響を受けてきました。両方のジャンルにかかわれるのはすごくありがたいです。

――『さよならですべて歌える』では、主人公が子どもの頃に父親に連れられてフェスへ行き、そこで観たアーティストに衝撃を受けます。フェスという開放的な空間が、物語のなかで重要な場所になっているわけですが、逆に今回の「それでも、ハッピーエンド」と「ハルジオン」のプロジェクトは、eカルチャーを愛するファン・クリエイターたちの存在を前提にしたものです。室内でネットを見るというような、最近おなじみのシチュエーション。その屋外と室内の違いが面白いなと思いました。

橋爪:今、新型コロナ対策の外出自粛によって大変な状況のなか、フェスやライブを開催することはしばらく難しいでしょう。けれど人と人が直に会って生まれる楽しさはやっぱりすごく大事なことだと思います。だから、それを待ちつつ、今できることの中でそれぞれの楽しみかたをしていくしかない。でも、こうやってYOASOBIさんの楽曲のように孤独をまぎらわせてくれる、ひとときでも一人でいることを忘れさせてくれるような音楽がある。今はそれを聴きつつ、いろいろな選択肢のある世界が戻ってくることを待ちたいですね。

――そんなタイミングに見合ったプロジェクトになりましたよね。

橋爪:得がたい機会にかかわらせていただいて、本当にありたがいです。

――ちなみに、外出自粛期間中の橋爪さんの楽しみはなんですか。

橋爪:家でお酒ですかね(笑)? 幸いなことに僕の場合、パソコンさえあればどこでも仕事はできるので、小説に集中できているのは楽しいことです。疲れたとか遊びたいとか思った時、いつもなら真っ先に外に出て飲みに行こうと考えるのですが、選択肢が減っていることによって、これまで観ていなかったネットフリックスで話題のドラマなどを観られるチャンスにもなっています。同時にこういうアイデアがあるのかとか、勉強になることも多い。それは、こういう状況にならないと得られなかったことです。今の状況をいかにプラスにとらえられるかですね。

――新作もどんどん執筆できそうな環境ですね。

橋爪:頑張ります(笑)。

■発売情報
2020年5月11日(月)配信リリース
「ハルジオン」
作詞・作曲・編曲:Ayase/歌唱:ikura
原作:「それでも、ハッピーエンド」(橋爪駿輝・著)

電子書籍版「それでも、ハッピーエンド」(橋爪駿輝・著)
5月11日(月)よりReader Store、kindle他主要電子書籍ストアにて順次配信
価格:300円+税
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