『キャプテン翼』高橋陽一が挑戦してきた、紙の本ならではの漫画表現

『キャプ翼』の高度な漫画表現に迫る

「紙」というフォーマットで読むべき漫画表現

※以下、ネタバレ注意

 たとえば、前述の『キャプテン翼マガジン』掲載分でいえば、第104話のP48からP59までを見てほしい。そこでは、翼と岬太郎(=翼の名パートナー)がふたりでボールを高く上げてからゴールを決めるまでの一連の動作が描かれているのだが、この12ページは、基本的に6つの「見開きの連続」として構成されている。これは、従来の、右ページから左ページへと読者の視線を誘導していく漫画の見せ方を完全に無視した大胆な表現なのだが、それゆえに、異様なスピード感を生み出しているといっていいだろう。漫画の1コマを映画のフレームに見立てている漫画家は多いが、高橋陽一の場合は、(「決め」のシーンを描く際には)見開きを1つのフレームとして考えているのかもしれない。

 ……と、こうして書いてはみたものの、やはり文章だけではちょっとわかりにくいと思うので、興味を持たれた方はぜひ『キャプテン翼』のコミックスの現物を見られたい(近年のシリーズであれば『ライジングサン』でなくてもいい)。上記の場面でなくても、同作のゴールにつながるような「決め」のシーンでは、たいてい見開きを何回か連続してつないでいくことで、独自のスピード感と迫力を生み出しているのがわかるはずだ。

 ただし、これは斬新な表現である一方、デジタル時代の漫画にはあまり向いている手法だとはいえない。なぜならば、スマホの画面では基本的には片ページしか表示されないし(つまり、せっかくの見開きの絵が中央で分断されてしまう)、そもそもこの「見開きの連続」が生み出しているスピード感は、右綴じの紙の本を手でめくって読むときのテンポと視線を想定して表現されたものだからだ(見開きで表示できる端末もあるが、タップやクリック、スクロールによる「めくり」では、画面が切り替わるときの「間」や、目に映るビジュアルの印象がわずかに違ってくると思う)。そういう意味では、『キャプテン翼』という漫画は、雑誌にせよコミックスにせよ、この先も紙の本で読むべき名作だといえるだろう。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。@kazzshi69

■書籍情報
『キャプテン翼マガジン vol.1』
価格:680円(税込)
公式サイト
『キャプテン翼 ライジングサン(13)』
価格:506円(税込)
公式サイト
出版社:集英社

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