マレーシア発の学習マンガ『どっちが強い!?』が大ウケした理由 2月期月間ベストセラー時評

『どっちが強い!?』が大ウケした理由

「学習マンガ」とそれ以外を分ける日本独自の商慣習が海外勢に有利に働いた

 では、『どっちが強い!?』はなぜ日本で成功したのか? 科学学習マンガジャンルにおいて、動物と動物がガチで勝負することをテーマにしたものは当時なかった。

 作家陣は『AKIRA』やジャンプマンガの模倣からマンガ家人生を始めたがゆえに、日本マンガに慣れた読者に受け入れられやすかったこともあるだろう(参考:「NNAアジア」2019年3月26日「【アジアで会う】スライウムさん、レッドコードさん 漫画家 第244回「AKIRA」を描きたくて」)。

 マンガはエンタメに寄せているが、記事内の動物イラストはリアルかつ緻密に描いているのも特徴だ(記事ページは日本ローカライズがなされ、改めて日本人の監修者を立てて内容を精査していることで保護者からの信頼も得ている)。

 実は『どっちが強い!?』にしろ『サバイバル』にしろ、クリエイター陣は「学習マンガ」としてではなく「エンタメマンガ」として制作している。「児童マンガ」「少年マンガ」と「学習マンガ」をジャンル的にも書店の棚でも分けるのはあくまで日本独自のカテゴリー分け、商慣習であって、海外では「子ども向けマンガ」でひとくくりにされている。

 言ってみれば『コロコロコミック』や『週刊少年ジャンプ』のような児童マンガ・少年マンガ的な作品の大ヒット作と学習要素の強いマンガが同じ棚・同じ平台で戦わないといけない市場になっており、そこで勝ち抜いてきた作品が海を越えて日本にやってきているわけだ。

 日本では2000年代以降、狭義の「児童マンガ」は衰退の一途を辿っており、『サバイバル』が参入するまでは学習マンガも昔ながらのものが多かった。そこに『サバイバル』『どっちが強い!?』という学習要素もある子ども向けエンタメマンガがやってきて市場を席巻した結果、今では日本発のフォロワー作品が無数に生まれている。

マレーシアと日本、韓国と日本のコラボ企画も

 『どっちが強い!?』の原題は「PRIMAL POWER SERIES」だが、日本版では子供がひと目で見てわかりやすいシリーズ名を狙って『どっちが強い!?』に決めた。男児は「最強は誰(何)?」を気にする生き物だから秀逸なネーミングだ。ただ、読者は男児だけでなく、男女比は6:4。読者は小学校低学年が中心だが、未就学児童にも広がっている。

 さらに2019年6月からは『どっちが強い!?』シリーズのキャラクターを使い、日本人がシナリオ・ネームを担当し、GEMPAKのスタッフがカバーや巻頭マンガを作画したスピンオフ『のびーる国語』シリーズも刊行されている。『サバイバル』シリーズでも同様の手法で制作された日韓コラボの日本オリジナル企画があるが、こうした国を越えた学習マンガのコラボレーションも今後は増えていくのだろう。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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