ジャンプ4度目の黄金時代を牽引した『僕のヒーローアカデミア』、キーワードは“継承”
『スパイダーマン』や『X-MEN』といったアメリカン・コミックスのテイストを少年漫画に持ち込んだ『ヒロアカ』だが、劇中で語られるヒーローたちの姿が、『週刊少年ジャンプ』で切磋琢磨する漫画家たちの世界と重なって見えるのも、本作の面白さだろう。
最初に『週刊少年ジャンプ』が「4度目の黄金時代を向かえつつある」と書いたが、一人の作家に象徴させて、世代を4つに分けるとすれば、創刊となる68年から70年代にかけてジャンプ漫画のスタイルを確立した『男一匹ガキ大将』の本宮ひろ志が第一世代。80~95年の600万部時代を牽引した『ドラゴンボール』の鳥山明が第二世代。人気連載が軒並み終了し部数が激減した後、97年に『ONE PIECE』をスタートし、ジャンプ復活を果たした尾田栄一郎が第三世代。そして昨年、『鬼滅の刃』が大ブレイクした吾峠呼世晴を筆頭とする現在の若手作家たちが、第四世代となるではないかと思う。その先駆けとなったのが『ヒロアカ』の堀越である。
本作の連載が始まった2014年は『NARUTO-ナルト-』が終わった年だ。その後、『BLEACH』や『銀魂』といった第三世代の長期連載作品が終っていく中、『ヒロアカ』は彼らの意思を引き継ぐ『週刊少年ジャンプ』の看板作品として成長していった。
その姿は、まさにオールマイトの力を継承したデクのようで『ヒロアカ』に続く形で『約束のネバーランド』、『鬼滅の刃』、『アクタージュ act-age』、『Dr.STONE』、『呪術廻戦』、『チェンソーマン』とった連載がはじまり、今や若手の層がもっともブ厚い漫画誌となっている。
彼ら第四世代は、師弟関係をとても肯定的に描く。その際たる存在が『ヒロアカ』だが、個性を持ったヒーローたちがしのぎを削る世界で、自分の“個性”ではなく、先代の理想と力を“継承”して成長するデクの姿は、新しい世代のジャンプヒーローを示したと言えよう。
この“継承”が悪役にも適応されているのが『ヒロアカ』の面白さだろう。ヴィラン連合のリーダー・死柄木弔も先生と呼ばれる「オール・フォー・ワン」の意思を継ぎヴィランとして成長していくのだが、死柄木が受け継ぐのはある種の呪いで、ここでは“継承”の持つネガティブな側面が描かれる。
そんな死柄木とデクの対決が最後に描かれるのだろうが、『週刊少年ジャンプ』の伝統を継承した本作は次世代に何を託すのか。物語は今、最終局面を向かえつつある。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。