中森明夫が語る、80年代精神と“青い秋”の生き方 「本当のお祭りはついぞ訪れなかった」
成熟の出来なさとか孤独は、多くの人に共感してもらえるんじゃないか
ーー東京ならではの生き方でもありますよね。私も30代後半で“青い秋”が見えつつある年齢なので、とても染み入ります。
中森:東京じゃなかったら、こういう風にはなっていなかったでしょうね。田舎に行くと、変な汚い野球帽かぶってジャージで雪駄はいて昼間からパチンコやっている親父がいるでしょう? あれ、地方で生きた場合の俺だと思っている。
ーーそういう生き方をする人は、思いのほか多いのかもしれませんね。
中森:実際、2015年の調査で男性の生涯未婚率が23.4%とかになっているから、決して珍しいことじゃないですよ。東京だと、きっともっと多いはず。この『青い秋』は特殊な個人のエピソードではあるけれど、僕が感じている成熟の出来なさとか孤独は、多くの人に共感してもらえるんじゃないかと。
ーー改めて、この本はどんな風に読んでもらいたいですか。
中森:同年代の方には、きっと懐かしい気持ちで読んでもらえると思うんですけれど、あなたくらいの年代の方だと、子どもの頃に見ていたカルチャーの答えあわせができて、面白いんじゃないかなと思います。又吉直樹さんとかはそういう風に読んでくれたみたいです。あとは、当時のことを知らない世代の人が読んで、「へえ、こんなんで良いんだ」と思ってくれたら良いかなと。僕は最近、北海道新聞で「中森明夫の銭湯的メッセージ」という連載をやっているんだけれど、銭湯は子供から爺さんまで一緒のお風呂に入るわけじゃない? ああいう感じで、自分の文章がゆるく読まれたら良いなって思っています。
ーー世代から何から越えて、まったくの他人と同じ湯に浸かるというのは、よく考えるとすごく平和な体験ですね。
中森:そうそう、銭湯ならではのエピソードも出てくるしね。こないだ新宿の公衆浴場に行ったんだけれど、スーパー銭湯とかと違って、ああいうところは刺青の人を断れないから、いかにもな感じの人たちも来るんですよ。それで脱衣所で刺青の兄貴分が「俺らもそろそろビットコインのこと、真剣に考えなきゃいけないよな」なんて話している。で、子分がスマホでビットコインを調べて、「この落合陽一って奴がビットコインに詳しいみたいです!」って報告したら、「よし、じゃあその落合ってセンセーをさらってこい!」って言っていました(笑)。こういうエピソードは頭で考えても思いつかないから、やっぱり色んなところに行って色んな人と交流するのが良いですよね。
(取材・文=松田広宣)
■書籍情報
『青い秋』
中森明夫 著
価格:1980円
出版社:光文社