橋本治が問いかけた、少年マンガと少年たちの宿命ーー未完の名著『熱血シュークリーム』を読む

橋本治『熱血シュークリーム』、なぜ未完?

 同じことを語っているのが、第4章で『凄ノ王伝説』と『マジンサーガ』を通して語る永井豪論だ。橋本は『デビルマン』等の永井豪の漫画は「臆病な男の子が自分の中に眠っているものを目覚めさせた途端、世界はそのまんま破滅に直結してしまうという凄じい本質把握なんである」と喝破する。同時に、悪魔と合体し「デビルマンに変身してしまった主人公・不動明がその後で感じる自己嫌悪は、少年が性的な自分に感じる自己嫌悪と同じものだ」と語っている。

 矢吹丈が真っ白な灰に燃え尽きたことも、永井豪の漫画の主人公が世界を滅ぼしてしまうことも、成長した少年に、その先(あした)がないという意味において同じことだ。その意味で『あしたのジョー』と『デビルマン』で少年漫画は終わったと言えるのだが、おそらく橋本は“あした”を諦めたくなかったのだろう。つまり、少年というグロテスクで未完成の存在が、つまらない大人にならず、少年のまま“あした”にたどり着くにはどうすればいいのか?

 その回答が、第4章の『マジンサーガ』や『バタアシ金魚』についての文章だろう。しかし、それもまた可能性としてしか示されていないのは、そもそも少年マンガ(と少年)が、未完であることを宿命づけられた存在だからだ。だからこそ本書も未完で終わるのだが、その問いかけ自体は今も古びていない。それこそ『進撃の巨人』のような近作の少年マンガにも当てはまる大きなテーマである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『熱血シュークリーム 橋本治少年マンガ読本』
橋本治 著
定価:本体2,200円
発売/発行:毎日新聞出版
公式サイト:http://mainichibooks.com/books/essay/post-694.html

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