さよならポエジー、“音楽だけ”を信じるピュアな空間 いつも通りに過去最高を更新した『BORDERLANDS』

14曲目「二月の中を / February」の〈誰にも頷かなくていい/誰にも頷かなくていいのにね〉というフレーズや、私たちリスナーと同じく日々悩みながらも、社会の息苦しさとは無縁の場所で音楽を鳴らすこのバンドのスタンスに、人知れず救われた人はきっと多いだろう。そしてオサキの「初めての方もいらっしゃいますよね? この通り、(MCで)決定的なことは何も言わないので」という発言のあと、「その一閃」で自然発生したシンガロングは、リスナーからバンドへと贈られた最大級の愛だった。ステージから「歌って」と煽られたわけではない。歌いたいから歌う、そんなバラバラの意思がたまたま合致して、結果的に生まれた歌声の花束。なんて美しい光景だろう。この曲の歌詞になぞらえれば、時代が、彼らを選んだかどうかはわからない。しかし、ここにいる人たちは間違いなく、さよならポエジーを選んで今日まで生きてきた。
「さっきのところ、みなさんいつの間にか歌うようになって」と言うオサキは、表情を大きく崩すことはないが、それでも嬉しそうだ。そして「しっとりしない宣言をします」という熱い発言とともに、3人でジャーンと一発鳴らしたあと、「邦学のススメ」へ。さらに「そう」「きずかないまま」と連投し、ライブのクライマックスへ向かった。19曲目「オールドシンク」の演奏前には、「いなくなった友達がいて。でもなんか戻ってきたから、封印してたんですけど、やります」とオサキが語る。これにはフロアも大歓喜。メンバーも演奏に心血を注ぎ、音の層がもう一段分厚くなった。ライブ終盤にしてバンドの覚醒だ。

ラストのMCでは、オサキが、さよならポエジーは作戦を立てながら活動しているバンドではなく、時に「リリースペースが遅いと言われることもある」と言いながら、「友達がライブ誘ってくれたりするから、ただバンドやってるだけなんです」と改めて目的を語る。そして、自分たちの活動を理解してくれている目の前の観客に向けて、「やっててよか…………ったと、みなさんにお伝えします」と伝えた。いつになく素直なオサキの発言を聞いて、岩城は「やっててよかったと、言ってくれてよかったー!」と大喜び。笑顔で頷くナカシマも含めて、いいバランスの3人だ。
「別にみなさんを満足させようと思って演奏してません。作為的なものは何もない。“一方的”と“一方的”が混ざり合って、すごいものになるのを求めてるだけ。その上で、ライブに来てよかったと思ってもらえるなら本望です」

そうして始まったラストブロックでは、まず、「そういえばこれは初めて誰かのために書いた歌かなと思ってます。持って帰ってください」という言葉を添えて「前線に告ぐ」を披露。ラストの「SHIKEMOKU CITY」は待ち望んでいた人が多かったのか、イントロと同時に大きな歓声が上がった。観客は高揚感とともにシンガロング。再びの美しい光景に、驚きつつも嬉しそうなオサキは、客がいたって関係ない、ボーカルは俺だと言わんばかりに強く発声したり、ときどきマイクから離れて観客に歌うのを任せたりしている。寄り添いすぎない距離感が心地いい。
アンコールを求める声に呼ばれて再登場したメンバーは、「やり尽くしましたよ!」と言いながらも笑顔。ステージからの「ありがとう」とフロアからの「ありがとう!」が行き交う中、ライブは熱い余韻とともに幕を閉じた。振り返れば、歴代アルバムを網羅したオールタイムベスト的なセットリスト。中には“封印”から解かれた曲もあり、いいライブにしようというメンバーの気合いが読み取れたが、とはいえ“ついに辿り着いた”的な感慨はない。3人はいつも通りの佇まいで、過去最高のライブをしてステージを去った。

そんな中、メンバーが、今日のような大きなライブもいいが、普段のライブにも来てほしい、と話していたのが印象に残っている。全国にあるどこかのライブハウスで、日常のようにドラマが繰り広げられていることを知っているからこその発言だろう。今日みたいな祝福の夜にも、わずかな人数しか目撃できない夜にも、かけがえのないロマンがある。そして彼らは次のライブハウスへ。さよならポエジーと私たちリスナーの日常は、これからも続いていく。
※1 https://natalie.mu/music/pp/sayonarapoesie

























