稲葉浩志とHYDE、絶え間ない試行錯誤と自らを進化させる勇気 今あたらめて感じる鮮烈なパワー

 90年代に頂点を築き、時代を象徴するアーティストである稲葉浩志とHYDEの二人は、現在もなお最前線で存在感を更新し続けている。しかも今年2026年の春には、それぞれが大きな動きを見せることになる。

 まず大きな話題となったのが、稲葉による「タッチ」(原曲:岩崎良美)のカバーだ。国民的アニメソングとして長く親しまれてきたこの楽曲。今回、稲葉の声で歌われることによって、その質感は更新された。原曲のメロディラインを尊重しながら、歌詞を一音一音押し出すような発声やサビに顕著なロングトーンの伸びによって、楽曲はハードロックの推進力を備えたアンセムへと再構築されている。懐かしいメロディが、成熟したボーカルによって新たな熱を帯びる。その変化は単なるアレンジの違いではなく、歌い手が積み重ねてきた時間があってこその結果だ。そこにあるのは、誰もが知る名曲を“今”の身体と声で鳴らす必然性である。

『2026 ワールドベースボールクラシック』|Netflix 大会応援ソング|稲葉浩志「タッチ」|スペシャルムービー

 稲葉のカバーによる「タッチ」は、『2026 ワールドベースボールクラシック』Netflix大会応援ソングに決定している。世界大会に相応しいスケール感、観客の興奮を自然に呼び込む構造だけでなく、映像と結びついたときの高揚感も計算されている。世代を超えて共有されてきたメロディと、世界大会という大舞台。そのふたつの点を繋ぐ説得力を稲葉の声は持っている。

Action (VS. 稲葉浩志) / TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA

 近年のソロ活動でもこの個性は光っている。東京スカパラダイスオーケストラのゲストボーカルとして歌唱した「Action (VS. 稲葉浩志)」では、ホーンセクションと絡み合う軽快なグルーヴの中で新たな表情を見せた。リズムのうねりの中に身を置き、間合いを楽しむ。そこにはキャリアを重ねた稲葉ならではの余裕があった。

 また、スティーヴィー・サラスとのユニット・INABA/SALASでは、よりダイレクトなロックの衝動を前面に押し出しているのも印象的。ステージ上での佇まいは変わることなく、常に挑戦の側に身を置き続ける姿勢で、安全な選択肢は選ばない。その姿勢こそが、長く第一線にいる理由だろう。

 その挑戦の姿勢を象徴する出来事の一つが、2019年の『SUMMER SONIC 2019』だった。B'zはこの年、日本人アーティストとして初めて同フェスのヘッドライナーを務めたのだ。国内最大級の舞台でヘッドライナーを託されるという事実は、信頼と実績の証であると言える。そして今年、そのバトンを受け取るかのように『SUMMER SONIC 2026』の史上2組目となる日本人ヘッドライナーがL'Arc-en-Cielである。結成35周年を迎えた今、満を持しての登場だ。

HYDE-THE ABYSS

 フロントマンのhyde(Vo)は、HYDEとしてソロでの活動も活発だ。彼の凄みは、変革のスピードと振り幅にある。思えば、2024年から2025年にかけては攻撃的で重厚なロックを提示したのに続いてリリースされた最新アルバム『JEKYLL』では、一転して静謐で耽美的な世界観へと踏み込んだのも象徴的だった。HYDE初期ソロ作品を思わせる繊細さを持ちながらも、声のトーン、ブレスの置き方、言葉の滲ませ方……その一つひとつが計算され、なおかつ衝動を失っていないのである。TOMORROW X TOGETHERに提供した楽曲に自らコラボレーション参加した「SSS (Sending Secret Signals) (feat. HYDE)」にも象徴されるように、彼は新しいイメージを作り続けている。“静”の緊張感と、一瞬で空気を塗り替える“動”の爆発。そのギャップは圧巻だ。経験を重ねたからこそ到達できる表現であり、同時に今なお進化の途上にあることを証明している。

 こうして並べてみると、二人の方向性の違いは鮮明である。稲葉が声という一点を徹底的に磨き上げる求道者だとすれば、HYDEは自己像を更新し続ける変革者だ。前者は深化、後者は変容。だが、両者に共通しているのは、過去の成功にすがらない姿勢である。90年代に頂点を築いた存在が、30年以上を経てなお音楽シーンの顔であり続けている背景には、絶え間ない試行錯誤と、自らを進化させる勇気が存在している。稲葉が示す、世代を横断する歌の強度。HYDEが体現する、形を変えながら前進する意志。この二つの大きなパワーを、我々は2026年にあらためて感じることになるのだろう。

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