竹原ピストルがキャリアを重ねて手にした自然体の強さ “言葉の群れ”から生まれた『すうぉ~む!!』を語る

竹原ピストルから約3年半ぶりとなるオリジナルアルバム『すうぉ〜む!!』が届けられた。2022年リリースのミニアルバム『悄気る街、舌打ちのように歌がある。』、2023年のライブアルバム『One for the show』に続く本作には、「逃がしてあげよう」(ルートインホテルズCMテーマソング)、「一夜」(ドラマ『ブラック・ジャック』主題歌)、「見事的中!!予感的中!!」(クレディセゾン サッカー日本代表応援CMテーマソング)などを収録。さらにWEST.への提供楽曲「ぼくらしく」のセルフカバー、『One for the show』に朗読音源として収められた「アンチヒーロー」の新録バージョンも収録され、全17曲の濃密な作品に仕上がっている。
アルバムタイトルの由来は、“言葉の群れ、歌の群れ”というイメージを反映した“swarm”。48歳になってもなお、怒涛のように言葉を紡ぎ、歌い続ける竹原ピストルに、本作の制作について語ってもらった。(森朋之)
チームとの向き合い方、「誇れよ、己を。」の手応え
——ニューアルバム『すうぉ〜む!!』が完成しました。オリジナルアルバムとしては、『STILL GOING ON』以来、約3年半ぶり。その間もミニアルバム『悄気る街、舌打ちのように歌がある。』、ライブアルバム『One for the show』のリリースもあり、精力的な活動を続けていたわけですが。
竹原ピストル(以下、竹原):はい。なので“3年半ぶり”という感じはなくて、そういえばそんなに経ってたかっていう。間が空いたせいかわからないですけど、今までのアルバムのなかで一番歌の種類がバラバラで、いろいろな曲が入ってるなとは思いますね。ただ、「こういうアルバムにしよう」みたいなことはまったく考えてなかったんですよ。1曲1曲「よし、いいのができた」という感じで作った曲の集まりだし、だからバラバラになったのかなと。
——「この3年半、こんな歌を作ってきた」という結果なんですね、このアルバムは。
竹原:そうだと思います。コンセプトがないから、タイトルは難しかったですけどね(笑)。「何でもいいんだけど、強いて言うなら……」みたいな感じで出てきたのが、『すうぉ〜む!!』で。“言葉の群れ、歌の群れ”みたいなイメージなんですけど、アルファベット表記(swarm)にするとスラッシュメタルっぽくなりそうだったから、平仮名にしました。
——曲作り自体はまったく止まることなく続けていたんですか?
竹原:ありがたいことに、今のところ曲作りで困ったことはないんですよ。言葉をひねくり回すのも相変わらず好きだし、「これいいな」というフレーズが出てきたら、そこからバーッと歌詞を書いて。今まで以上に肩の力が抜けたというか、「すげえいい曲を作ってやる!」という力みがなくなってきたし、月並みな言い方ですけど自然体でやれてるのかなと。タイアップとかで締め切りがあるときは、「急げ急げ!」ってなってますけどね(笑)。
——歌詞が書けたら、「できた」という感じになる?
竹原:そうです。「やった! できた!」と思うのが、人よりも一段階早いというか(笑)。結局、言葉を生み出すところが一番難しいし、最も苦労するところですから。そこができるとホッとするし、「よかった」と思えるんですよね。
——では、アルバムの収録曲について聞かせてください。まず「何食わぬ顔で食ってきた」ですが、これはもうタイトル自体がパンチラインですね。
竹原:僕がやりがちな言葉遊びではありますね。「これで曲を作れるな」「タイトルにできそうだな」というエネルギーを持った言葉があって、「どうしてこの言葉に行き着いたんだろう?」みたいな感じでパズルみたいに埋めていく書き方が好きなんですよ。この曲はその典型ですね。
——〈どうなろうともどうにかなるさ〉という歌詞は、竹原さんのパブリックイメージに近いと思いました。
竹原:そうなんですかね? 実際はそうでもないというか、応援してくれてる人は、僕がウダウダ、ウジウジした人間だってわかってると思います(笑)。まあでも、「なんやかんや言ってここまでやってきたし、どうせこのまま続いていくんだろ」みたいなニュアンスは若干あるかも。ヤケっぱちですけどね。
——この曲はロックテイストのアッパーチューンですが、サウンドに関してはどんなイメージがあったんですか?
竹原:曲を作ってた段階で“朗読モノ”になるだろうなとは思っていて。先輩(佐藤洋介/ex.COIL)のスタジオでデモ音源を録って、それをディレクターさんに送るのがいつもの流れなんですけど、その時点でこういうアレンジになってましたね。先輩はエレキもベースも上手いし、何でもできる方なんですよ。思い付いたことをポロッと言ったらすぐに反映してくださるし、音楽にめちゃくちゃ詳しいし、一緒にやらせてもらってて楽しいです。ディレクターさんは野狐禅の頃からずっとお世話になっている高橋太郎さんで、「太郎さん、僕がこのデモをめちゃくちゃ気に入ってることだけは忘れないでくださいね」みたいなことも言えるんですよ。要は「あんまり変えるなよ」ということなんだけど(笑)、そうやってざっくばらんに言い合えるのも楽なんですよね。

——同じチームで磨き合ってる感じもありそうですね。そして「誇れよ、己を。」。この言葉のメッセージも強烈だなと。
竹原:アルバムを聴いてくださる方のイメージを固めたくないので名前は明かしませんけど、モデルになっている人がいて、その人に捧げる歌のつもりで書いたんです。「誇れよ、己を。」というフレーズは我ながらいいなと思ったし、これだけで曲が成り立つな、と。この形になるまでにもっと韻を踏んだり、いろいろ試してみたんだけど、やればやるほど「誇れよ、己を。」が埋もれる気がして。出来上がってみると、今まで一番シンプルな曲になったのかなと思ってますね。
ーーそれくらい存在感がある言葉だった。
竹原:そうですね。このフレーズが出てきた時に、「他の人がすでにやってたらイヤだな」と思って、ラッパーの友達に聞いたんですよ。MOROHAのアフロなんですけど、「ほかに使ってる人はいないですね」と言われて。あいつ、本当に日本のラップに詳しいんで。
——竹原さん自身、“自分を誇る”という感覚になることはありますか?
竹原:僕は正直、感じたことはないですね。「これを人に言ってあげたい」とは思うし、だから曲にしたわけなんですけど、自分で自分に“誇れよ”とは言えないし、ちょっと恥ずかしい(笑)。ただ、質問の答えにはなっているかわからないですけど、アウェーのときの方が燃え上がる自信みたいなものはあります。「こんなの、何が怖えもんかよ。今までどんだけヤバい現場やってきたんだ? こんなんでビビんなよ」という気持ちになることはあるので。
——そんな現場、今もあります?
竹原:ありますね。ありがたいことに僕のことを知ってくださってる方が増えたので、舞台に出て行って「誰だ、おめえ?」みたいな感じになることは滅多にないんですよ。ただ、自分自身がその才能に嫉妬してるような、大好きでリスペクトしてやまない人とやり合うときは、「いいとこ見せてえな」「この人を応援している人たちに“ウワッ!”って思われたい」という感じになって。すごい幸せな緊張感ですけどね、もちろん。