椎名佐千子、時代を生き抜く人々への祈り ありのままの自分で歌う『よされ女節』を語る

椎名佐千子、新作に込めた人々への祈り

 昨年リリースした「いごっそ海流」が話題を集めた歌手・椎名佐千子が、2月12日に「よされ女節」をリリース。前作「いごっそ海流」で聴かせた力強さはそのままに、一途な女の心意気を歌った「よされ女節」。「日本三大流し踊り」のひとつ、青森の「黒石よされ」をモチーフに、じょっぱり気質の椎名が、唸り、こぶしを回す、演歌ファン一聴の楽曲。

 インタビューでは楽曲についての裏話はもちろん、「椎名佐千子は待つ女なのか?」「椎名佐千子が“よされ”と思うこと」などに答えた。またカップリングの「恋に焦がれて 甲州街道」、椎名自身が作詞に参加した「冬来たりなば 春遠からじ」についても、そこに込めた思いを語ってくれた。(榑林史章)

“佐千子節”全開で与える力

椎名佐千子(撮影=堀内彩香)

――前回の楽曲「いごっそ海流」は高知県土佐市が舞台でしたが、今回の「よされ女節」は日本列島を北上し、青森県津軽地方が舞台です。

椎名佐千子(以下、椎名):徳島県の「阿波おどり」、岐阜県の「郡上おどり」と並ぶ、「日本三大流し踊り」のひとつに青森県の「黒石よされ」というものがあって、その「黒石よされ」から楽曲の着想を得ています。前作の「いごっそ海流」がとても勢いのある楽曲で、「やっぱりこういうものがいいよね」という話になり、今回も勢いのある方向性の曲になりました。「よされ女節」は女性の心意気を歌ってはいますが、力強さという点では「いごっそ海流」の流れを汲んでいます。

【ミュージックビデオ】椎名佐千子「よされ女節」<Full>

――椎名さんと言ったら、やはり威勢のいい曲が似合います。

椎名:ありがとうございます。力強く唸ったりするところは、私の武器であり、特徴でもあって、「いごっそ海流」で「佐千子節だ!」と多くの方からご好評いただきました。唸りは、歌っていても気持ちが上がりますし、とても気持ちいいです。

――聴いているほうも、思わず一緒に唸ってみたくなります。

椎名:ぜひご一緒に(笑)! 「よされ女節」はお祭り感があって、イントロから気持ちがノッて歌に入れます。先日初披露をさせていただいた時も、聴いてくださっているお客さんが自然に手拍子をしてくださったり、聴きながら体を動かしてくださっている方もいて、「ああ、とてもノレる曲なんだな」と実感しました。

――実際にレコーディングした時はいかがでしたか?

椎名:歌っていて、すごく気持ちよかったです。どんどんノッてくるといいますか。歌詞には書いてありませんが、「エッチャホーエッチャホー ホーホーホー ソレッ」という掛け声があって、ここはお気に入りポイントです。お客さんとの掛け合いのなかで盛り上がっていただいて、お客さんとひとつになっている様子がレコーディング中から目に浮かびました。

――「エッチャホー」は、「エッサホイサ」みたいな?

椎名:「エッチャホー」は、「あっち行け」という意味なんだそうです。田んぼの稲穂を荒らすスズメを追い払うために、「あっち行け」と言っていたのが「エッチャホー」に変化したとお聞きしました。ちなみに「黒石よされ」で着る浴衣には、スズメの羽根の模様が入っていて、とてもかわいいんですよ。

――スズメと言えば、鳥のイラストが描かれたグッズのTシャツを着られていましたよね。

椎名:私がインコを飼っておりまして、グッズのTシャツはそれをデザインしたものなんです。でも、私は鳥全般が好きなので、今回スズメが関係しているというのもとても嬉しいですね。

椎名佐千子(撮影=堀内彩香)

――前回は土佐に行って「鰹のたたきを食べたい」とおっしゃっていました。青森にもおいしいものがたくさんありそうですね。

椎名:海の幸も美味しそうですが、黒石の皆さんが「よされ女節」を聴いて、どんな反応をしてくださるのかが楽しみです。一日でも早く黒石に行けるように、スタッフが一生懸命動いてくださっています。この夏には、スズメの浴衣を着て「黒石よされ」に参加したいです!

――「よされ」には、さまざまな意味があるそうですね。

椎名:そうですね。悪いことに対して「去れ」と言っている意味もあれば、楽しいからみんな集まっておいでという「寄され」という意味もあって。

――「寄され」というのは、コンサートをやるときに打ってつけですね。

椎名:はい。ひとりでも多くの方に「きてください」という。そういう意味では、本当にいろいろな意味を込めて歌える曲です。曲自体は、夢を叶えるために都会に出て行った男性を待っている、女性の一途な思いを歌っていますが、私自身もいろんな曲を聴いてグッときたり「共感できるな」「ああ、わかるな」という気づきがあるように、皆さんもそれぞれの解釈で聴いていただけたらと思います。歌っている私の思いとしては、最近は地震などの災害も多くて、こんな大変な時代だからさまざまな不安を抱えて過ごされている方が多いと思うので、そんな皆さんの願いや思い、祈りが叶うといいな、と。私の心にはそんな思いがとても強くあります。

――ある意味での“応援歌”と受け取ってもいいですね。

椎名:そういう側面もあるかもしれません。コンサートではお客さん一人ひとりのお顔を見ながら歌うので、余計に気持ちがこみ上げてきて、思いもより込められます。これからステージを重ねて歌うたびに、「よされ女節」への思いや表現が変わっていくのかもしれませんね。

“昔の記憶”を呼び起こして臨んだレコーディング

椎名佐千子(撮影=堀内彩香)

――先ほどもおっしゃっていましたが、ストーリーとしては都会に出てしまった男を待つ女の歌なのですが、椎名さんご自身は待つ女ですか?

椎名:何を待つかにもよりますけど、意外と決めたら待つほうだと思います。決して泣きながら待つわけではありません。泣きながら待つくらいなら、踊って楽しく過ごしたい(笑)。カラッとしているところがあるんです。そこは「よされ女節」の歌詞と同じかもしれません。くよくよしないタイプなのかなと思います。

――歌詞には〈じょっぱり気質〉という言葉も出てきます。

椎名:「じょっぱり」は津軽弁で、「頑固者」や「意地っ張り」の意味です。こういうところからも、まさしく私の曲だなと思います。「いごっそ海流」の「いごっそ」も、男性に対して使う言葉ではありますが、「頑固で気骨のある」という意味でした。ちなみに肥後の「もっこす」も頑固者の意味で、「じょっぱり」「いごっそ」「もっこす」の3つで「日本三大頑固」と呼ぶそうです。思えばデビュー曲「御意見無用の人生だ」の歌詞にも、〈やると決めたら まっしぐら〉というフレーズがありますし、ここだと決めたらもう動かない、そういう頑固さが私にはあるのかなという気がしています。

【ミュージックビデオ】椎名佐千子「いごっそ海流」<Full>

――じゃあ次に歌う曲は「○○もっこす」で、頑固三部作ですね!

スタッフ:ありですね!

椎名:ありなんですか(笑)?

――(笑)。レコーディングはいかがでしたか。

椎名:最初は自分なりに歌い方を組み立てて、「こう歌ったら私らしさを出せそうだな」と考えたり、一度は自由に歌ってみて、そのうえでディレクターさんや作詞/作曲の先生からアドバイスをいただいたりします。今回は作曲の岡千秋先生をはじめ、皆さんから「きれいに歌おうと思わなくていい」「ありのままで歌ってみて」と言われました。昔ヤンチャをしていた時代がある私なので、「そういう佐千子を思い切り出せ!」と(笑)。それで昔の記憶を呼び起こして、私らしくレコーディングに臨めたと思います。岡先生は、「まじめに歌わなくていい。何なら一杯飲んで歌え!」ともおっしゃっていました(笑)。

――岡千秋先生らしい。

椎名:本当に飲んだら怒られますが(笑)、飾らず素のままを全部さらけ出せという意味ですよね。岡先生は曲を作る時、歌う人のイメージを膨らませて作るとおっしゃっていて。私に書いてくださる曲も、その時の私にぴったりの曲を作ってくださいます。

――自分の性格に近い曲だと、より歌いやすいのでしょうか。

椎名:それはあると思います。無理に演じることなく、それこそ自然のまま、ありのまま、気持ちを込めて歌うことができます。

――歌詞の〈ひとり踏ん張る あんたの夢が/いつか叶って 帰るまで〉というフレーズもいいですね。いろいろな立場の人に刺さりそうです。

椎名:そこは私も好きなフレーズで、まさにそういう気持ちを込めて歌っています。

椎名佐千子(撮影=堀内彩香)

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