TETORA、ライブバンドの日常における“特別な1日” 剥き出しの演奏で33曲を駆け抜けた武道館ワンマン
ホームのライブハウス・心斎橋BRONZEでの10カ月連続イベントの真っ最中だから、日本武道館に立った5日後にはBRONZEでまたライブをする。100点の模範解答を狙うのではなく、ステージで100%己を出し切れるか否か、その結果で泣いたり笑ったりする日々は続いていく。『経験が盲点にならないようにツアー』の初日公演として開催された、TETORAの初の日本武道館ワンマンは、そんなライブバンドとしての日常の中にあった特別な1日だった。
開演時刻になると、温かい拍手と歓声に迎えられて、メンバーの上野羽有音(Vo/Gt)、いのり(Ba)、ミユキ(Dr)が登場した。いつも通り、ドラムセットの周りに集まって声を合わせてからスタンバイする3人。そして客席では、右手につけてほしいというアナウンスとともに来場者に配布されたPIXMOBがオレンジ色に光っている。上野はのちにMCで「今日は席あるからモッシュもダイブもできないけど、私たちはライブハウスでやってるような感じでいくから。みんなは今日しかできない楽しみ方をして帰ってください」と言っていた。その発言を象徴するような光景だ。
「メジャーのお話を断らせてもらってまで、インディーズで、Orange Owl Recordsで武道館に立ちたかった。Orange Owl Recordsで立たなきゃって強く思った。それが恩返しじゃないけど、言葉じゃなくて出来事で伝えたかった。自分勝手な私らやし、いつまで経っても不器用やけど、ここに来てよかったと思う」
ライブ終盤でそんなMCもあったように、“インディーズで武道館に立つ”ということにプライドを持っていたTETORA。それはチケットが売り切れない覚悟をしてでも(実際は見事ソールドアウトしたが)、メジャーレーベルへの移籍の話を断ってでも、3人が成し遂げたかったことだったという。TETORAはこれまでも自分たちがカッコいいと思うものを、自分たちの価値基準で判断し、都度選択してきた。中には「楽曲の配信を行わない」などシーンの主流の逆を行く選択もあったし、そもそも楽曲の制作から配信まで一人で行うことも可能なこの時代に、複数人で泥臭くバンド活動を行おうという選択自体がアナログ的かもしれない。しかしその分、配信がないならCDを購入して楽曲を愛そうというリスナーの態度、その熱を持ってライブハウスにやってくる人たちとTETORAがともに作るライブ空間の純度は高い。だからこそメンバーはこの場所にあるものは“本物”だと信じられたのだろうし、自分たち自身もまた“本物”でいたいと燃えるのだろう。
そしてこの日、TETORAが信じ体現する“カッコいいロックバンドの姿”を追いかけてきたリスナーが日本武道館に集まった。そんな中、1曲目に選ばれたのは「わざわざ」。上野がギターを弾きながら歌い始めた〈本当に好きだったら/何もわざわざなんて思わない/誰にもわかってもらえないこと/君と気づいたら確信に変わる〉というフレーズは、本来3人さえ信じていられればよかった美徳を、もっと多くの人と共有できた喜びを歌っているようだった。上野が「武道館でワンマン、TETORA、始めます!」と宣言したあと、イントロでいのり、ミユキの音が合流。背後の巨大LEDにバンドのロゴが大きく映される中、3ピースサウンドが武道館に堂々と鳴り響く。
この日TETORAは、最新アルバム『13ヶ月』の収録曲、歴代アルバム収録曲、上野が人生で初めて書いた「もう立派な大人」などバンドのルーツにある曲など、全33曲を披露した。「もう立派な大人」には〈今年も桜が綺麗だね〉というフレーズがある。一方、1年を描いたコンセプトアルバム『13ヶ月』のインタビューで、「桜にまつわる思い出はあるか」と尋ねたところ、上野は「桜の季節は毎年ライブをいっぱいしているから、気付いたら散っていることが多いです(笑)。移動中に車の窓から見るくらいで印象的な思い出は特にない」と言っていた(※1)。このバンドでやっていこうと決めたことで、3人の生活はライブハウス中心のものに変化し、時には桜さえも視界に入らなくなるほど、バンドに夢中になっていったということだろう。「わざわざ」の最後の一音を鳴らさず、そのまま曲間を繋げるセッションに入ってから「7月」へ。スティックカウントを挟み「8月」。さらに、いのりがBPMを下げながら、曲間をビートで繋いで「9月」――と4曲連続で届けた冒頭ブロックから、手を動かし、汗をかくことで3人が獲得したアンサンブルはきらきらと輝いていた。LEDには3人の真剣な表情が映っている。