さとうもか、素直に向き合った“本当にやりたい音楽” 3年ぶりのアルバム『ERA』と30歳の今を語る
10月30日、シンガーソングライターのさとうもかが5thアルバム『ERA』をリリースした。同作は約3年ぶりの新作となっており、今年30歳を迎えた彼女が感じている葛藤や心境の変化が詰め込まれている。2024年から新たなスタートを切った彼女に、同作に込めた思いや自分自身について、じっくり話を聞いた。(高橋梓)
10代の頃とは違う葛藤に向き合った10年間の総復習としてのアルバム
ーー今回約3年ぶりのリリースとなりますが、まずは現在の率直な心境から教えてください。
さとうもか(以下、さとう):すごく嬉しいというのがいちばん大きいです。今年で30歳を迎えたので、今回のアルバムは10年間の総復習みたいなところもあって。本当にやりたい音楽をこのアルバムを通して表現できたと思っています。みなさんにたくさん聴いていただきたい一枚になりました。
ーー同作を制作する前、準備したことなどはありましたか。
さとう:気持ち的には、初心に返って音楽に取り組もうと思っていましたね。あとは「やりたいことを形にしていこう!」と決めて、制作を始めました。
ーー「今感じてる葛藤や心境の変化を詰め込んだ」ということですが、こういった作品の方向性にしたのはなぜだったんですか?
さとう:今年が29歳から30歳になる節目の一年だったこともあって、自分自身が変わった部分、変化したものに気づくタイミングがたくさんありました。たとえば10代の時の葛藤と、20代の時の葛藤はまた少し違うなとか、そういった意味でも、この10年間の変化、10代の頃とは違う葛藤みたいなものを作品にできるかなと思ったのがきっかけでした。
ーー10代と20代の葛藤の違いって、具体的にどんなものだったんでしょう?
さとう:10代の時は、そもそも何がわからないかがわからないという状態で(笑)。20代前半くらいで何がわからないかが少しずつ見えてきて、知らなかった自分というものに気づかされていった感じでした。20代後半に突入してからは自分のできなさを感じて苦しいと思った時もありましたが、10代の頃の悔しさや悶々とした気持ちとはまた違うというか。もう少し具体的になった感覚がありましたね。それは20代ならではの葛藤なのかなと思います。
ーーなるほど。で、30歳で大人になった気がしたとおっしゃっていましたが、それも葛藤の変化を実感したからだったり?
さとう:そうですね。葛藤の変化だけではないんですけど、何がわからないのかがわかるようになったことで、大人になった感覚があったのかもしれません。というより、ちゃんと大人になっていくスタート地点に立てた、というほうが正しいかも。
20代と30代の違い「何がわからないのかがわかるようになった」
ーーその気づきがあったのは成長のひとつですよね。その成長を経て制作された14曲が『ERA』に収録されています。どの楽曲の歌詞も共感できる内容になっていますが、とりわけ制作過程が印象に残っている曲はありますか?
さとう:「りとる革命」、「チェーン・オブ・ユース」、「ERA」かな。「りとる革命」は長く一緒に音楽をやってる仲間たち、スピーチバルーンというバンドのみんなへの手紙みたいな気持ちで書いた曲です。私は途中で東京に引っ越したので、一緒にライブをすることもなくなっていたんですが、いつかまたみんなで一緒に演奏ができたらいいなと思っていて。ずっと続けていくのは大変だと思うけど、それでもそれを目標や希望にしていたらきっとまた一緒に音楽ができるよね、という思いを曲にしました。
ーーまさに「りとる革命」はスピーチバルーンが編曲を担当していますが、彼らの反応はどうでしたか?
さとう:「震えるわあ〜」って(笑)。すごく嬉しかったです。言葉にしてよかったなって。そして、次の「チェーン・オブ・ユース」は曲の前半までを24歳くらいの時にすでに作っていて、その先を今年書いた一曲です。学生時代が終わってから、当時すごく仲がよかった友達に久しぶりに会うと、価値観が変わっていると気づくことってありません? 24歳くらいの時はそれがすごく寂しく感じていたんですが、今はそうは思わなくて。「寂しい」「あの時のままでいてほしかった」という気持ちの鎖も取れて、新しくまた繋がっていこうと思えるようになったんです。今まで何年も開けて続きを書いた歌詞はなかったので、楽しく書くことができました。
ーー昔の歌詞に書き加えようと思ったのはなぜだったのですか?
さとう:このアルバムを作るとなった時に、過去のデモをたくさん聴き漁っていて。そのなかで「このメロディいいな」と感じたのが「チェーン・オブ・ユース」でした。デモは、歌詞が途中までしかなかったんですけど、「当時はこんなふうに思ってたんだ」と新鮮な気持ちになれましたし、逆に「今は違うな」と思う気持ちにもなって。それで続きを書いてみようと思ったのがきっかけです。
「ERA」は、収録されている曲のなかでもいちばん最後に作った曲。cocuriというアーティストのライブを今年観に行ったんですよ。久しぶりにライブを観ることができたんですけど、本当にかっこよくて、めちゃくちゃ感動して。どんなに時間があっても、人は止まらずに続いているんだなと感じました。そのライブを観たのが、アルバムの納期のちょうど1カ月前くらいだったんですよ。で、朝目が覚めたらこの曲が書きたくなって、一気に書き上げて。
ーーどれくらいで作り上げたんですか?
さとう:「ERA」は2時間くらいですね。普段はそんなにパッとできるタイプではないんですけど、この曲はすぐに書けちゃいました。しかもこの曲はアルバムに入れたほうがいい気がするという気持ちにもなって。アルバムのあとがきみたいな感じで、収録されていることで(作品が)まとまる気がすると思って入れた感じです。