秋山黄色のライブは何にも縛られない刺激的な空間に 夏フェスやツアーで味わいたいハイブリッドな感性
ライブは何が起こるか分からないから面白いと言うが、秋山黄色のライブは数あるソロミュージシャンと比べても独特なものであるように思う。その魅力がパッケージされたアイテムがリリースされた。ライブBlu-ray『秋山黄色 presents「BUG SESSION」at Zepp Haneda(TOKYO)』だ。
このBlu-rayには、今年4月に東名阪のZeppで開催された対バンツアー『BUG SESSION』のうち、“秋山黄色(ソロ)vs 秋山黄色(バンド)”と銘打たれたツアー最終日・東京公演の模様が収録されている。秋山はこのツアーが始まる直前、3月20日に配信シングル「ソニックムーブ」をリリースした。同曲のMVや「8bit ver.」という名前のティザーと同様、ツアーでもゲームのモチーフが用いられていたのは、「古いゲーム機を発見したが、起動するには莫大なエネルギーが必要」「ライブ会場で発生するエネルギーを利用して、ゲーム機を起動させよう」というストーリー設定があったからだという(※1)。今回発売されたBlu-rayもゲームモチーフのデザインになっていて、外装はもちろん、メニュー画面までかわいい。手に取るだけでテンションの上がるアイテムだ。
そして再生ボタンを押すと、まず、ライブ開演時の興奮を追体験することができる。開演を待っていると暗転。ステージを覆う紗幕の上に映像が映され、「Ready for Action?」という文字が、続けてツアーのロゴと秋山黄色の名前が表示され、観客も「フゥ―!」と歓声を上げる中、バンドのキメをバックに、秋山がギターリフを弾き始める。そうして紗幕落ちとともに1曲目の「やさぐれカイドー」がスタート。このオープニングは何回観てもワクワクさせられる。
前半はサポートメンバーの井手上誠(Gt)、藤本ひかり(Ba)、田中駿汰(Dr)とのバンド編成、後半は秋山一人という二部構成のステージだった。とはいえ、「2種類のステージが展開された」と言いきってしまうのは語弊がある。例えば後半のソロステージだけでも「アコースティックギター弾き語り」「サンプリングした音をループさせながら、ギターを弾いたり歌を歌ったりする」「伴奏を完全に同期に任せて自分は歌に集中する」などアプローチは2種類に留まらず、多岐にわたっていたからだ。ライブ中「楽しみ方は自由」と観客に伝えることも多い秋山だが、秋山のライブ自体にもまた制限がない。楽曲は音源と同じように演奏されず、新しい魅力を有した形で再構築されている。さらに、その時その場所で生じた感情も歌や演奏にダイレクトに乗っかっている。そうしてライブがいろいろな方向に転がっていくのが面白く、刺激的な公演だった。本来は「この日この瞬間限り」だった楽曲たちを何度でも、好きな時に楽しめるのがライブ映像作品の良さだ。
また、ライブ映像作品の醍醐味は、自分一人の身体に縛られず、いつもとは違った“目”でライブを捉え直すことができるところにもある。まずは“接近の目”。楽曲の顔となるギターリフを奏でる秋山の手元や、歌っている時の表情、足元でのエフェクターの操作など、混み合ったフロアでは目視しきれない部分を確認できるのは、音楽ファンにとって嬉しいポイントだろう。続いて“俯瞰の目”。例えば、生で観た時も照明の色味が印象的だった「アイデンティティ」は、照明をしっかりと見せる映像になっているし、「秋山が拳を掲げる→観客も拳を掲げる」という現場でのコミュニケーションもしっかりと収められている。そして“撮影・編集を手掛けたスタッフの目”。そもそも全カットがスタッフによって選定されたものであり、彼らの解釈が乗っているという前提があるのだが、個人的には「モノローグ」でのピントの合わせ方が、歌詞の内容とリンクしているようで印象的だった。