aimiが貪欲な女性達に捧げる今夏のパーティソング 生まれ変わって手にした新たな価値観も
やさしさと凜々しさを備えた良曲をコンスタントに発表し続けているR&Bシンガー、aimiが新曲「Love Like That」をリリースした。相棒と言えるModesty Beatsがプロデュースした今回の楽曲は、夏に映えるアップリフティングなディスコハウス。新しい出会いを求めるパーティソングだが、同時に日々アップデートが続く現代の女性像をメッセージするエンパワーメントソングにもなっている。昨年10月に声帯を手術し、歌声はもちろん、マインド的にも大きな変化があったというaimi。今年4月にリリースした「I’m OK」の制作背景も含めて、音楽に対する現在の心持ちや、今後に向けた展望などを語ってもらった。(猪又孝)
女性の野生味のようなものにエンパワーメントを感じる
――新曲「Love Like That」はキャリア初のディスコハウスですね。どんな経緯で制作が始まったんですか?
aimi:ディスコハウスはずっとやってみたかったんです。それに夏と言えばハウスかなって(笑)。最初にModesty Beatsからもらったトラックはホーンセクションが入っていてもっとディスコ寄りだったんですけど、ストリングスを入れて多幸感のあるサウンドにしたくなってきて。とにかく夏にエネルギーが湧き出てくるような曲にしたくて、どんどん夏仕様になっていった感じです。
――今回のミックスエンジニアはRyuseiさんが務めています。
aimi:初めてお願いしたんですけど、彼は今のヒップホップシーンを支える影の立役者だと思っていて。LANA、Starceed、7、Elle Teresa、Kaneee、Yo-Seaなど、たくさんのアーティストを手掛けていて、歌モノのヒップホップに強いイメージがありました。爆音で聴いても踊れるサウンドにしたくて彼にお願いしました。
――どのような経緯でRyuseiさんと繋がったんですか?
aimi:実は、デモができあがった段階でEMI MARIAさんに音源を送って、エンジニアは誰が合うか相談させてもらったんです。EMIさんが挙げてくれた中から自分で調べて、彼だったらクラブ映えするサウンドにしてくれるだろうなって。彼が手掛けた曲を聴いたとき、カルチャーがわかっている人だなと思いました。
――今回の曲には瑞々しさや清涼感も覚えました。
aimi:全体的にそれはあると思います。私のボーカルも今まで以上にピッチに当てるスピードが速いし、コーラスをたくさん重ねて固まりで聴かせるというより、ボーカル1本で聴かせられるような作りにこだわったので。あと、イントロやサビで〈Love Like……That, That, That, That〉とボーカルを切り刻んでいるところは、私がデモでシミュレーションしたものが使われているんです。私のデモが楽曲で使われるのは初めてだからドキドキしたんですけど(笑)。
――そういう声の処理も曲のクリスピー感に繋がっていると思います。
aimi:遊びで作ったくらいの感じが意外と良かったのかなって。今回は歌がメインになってほしくなかったんですよ。音楽としてノレればいいというか、DJの人がかけやすいようなサウンドにしたかったから。とにかく踊って、気持ちよく揺れてほしい。むしろ、そのために作った曲ですね。
――今回の歌詞はすべて英語ですが、その理由は?
aimi:音先行だったからですね。歌のグルーヴが一番かっこよく聴こえる言語がよくて、それが英語だったということです。
――歌詞はどんなイメージで書いたんですか?
aimi:誰かに依存したり、何かに囚われることなく、私は私でいて魅力的みたいな、そういう女の子がパーティに繰り出していくイメージで書きました。新しい出会いを求めにいくシングルレディのイメージもあって、その辺の調子のいい誰かと何かが起きちゃってもいい、くらいの自信にあふれている感じ。
――別に貞操観念が低いわけじゃなくてね。
aimi:そう。ブリッジのところで〈We’re strangers tonight / But we could make magic, right?(まだ見知らぬ人かもしれないけど、魔法をつくれるかも、ね?)〉って書いてますけど、自分に自信があってPick and Chooseしている女の子をエンパワーリングに感じるんです。
――自信がなくて自己肯定感が低いと、なかなか積極的になれないですからね。
aimi:制作中にTinasheの「Nasty」を聴いていたんですけど、歌詞に出てくる〈Is somebody gonna match my freak?(私のヤバさに誰がついてこれるの?)〉という態度って、Destiny’s Childが「Independent Women Part I」(2000年)を歌っていた時代とは違うじゃないですか。私たちは自分のお金で自分の好きなモノを買って自分の請求書を全部払うわっていう「Independent Women」のような自立性は、あの時代にまだまだノーマルじゃなかったから、それを歌うことがかっこよかったと思うんです。今は自立ができた上で野性的になるというか、女性の野生味のようなものにエンパワーメントを感じるんですよね。
――Tinasheの「Nasty」は、自分の性的な魅力を大胆かつ堂々と歌った曲です。aimiさんが立ち上げたR&B Lovers ClubのメンバーであるCookieさんのブログ『Respective』の記事によると、Tinasheは〈nasty girl〉の定義について、「自分自身を体現することだと思う」とインタビューで述べていて、「自分に自信を持って、自分が100%心地よいと感じる状態でいること。その日の気分やその瞬間の自分に忠実であることが大切だ」と語っています。
aimi:女子だから控えていなきゃいけない、女子だから待っていなきゃいけない、じゃなくて、Tinasheが歌う“Bold and Nasty”というアティテュードこそが今の価値観なのかなって思うんです。自立した上での自由。自由であることの責任も自分で負っているっていう。
――他に今回の歌詞でお気に入りポイントはありますか?
aimi:〈Tonight I want everything and / nothing but more〉の部分は自分でも好きですね。日本語に訳すのが難しいんですけど、今夜すべてが欲しいし、何もいらないんだけど、もっと欲しい、みたいな。そんな貪欲な女子ってめちゃくちゃかっこよくないですか? そんな女子、素敵! と思って(笑)。
――もう少し詳しく説明してもらえませんか?
aimi:何もいらないって手放しちゃってる感じがかっこいいなって。去るもの追わずなイメージで、依存していない状態。君じゃなくても私はすべてを手に入れられるし、君がいなくても私はハッピー。だけど、もっと欲しいんだっていう。
――それは恋愛において?
aimi:恋愛に限らず、人生において、もっと得られるものがあるはずだっていう態度です。いいねの数とか人からの評価とかも含めて、誰に何を言われようが、私は私で私のやりたいことをやるから、みたいな。自分で自分の自由を決めるというか、何にも依存せず、向上を求めているマインドは素晴らしいし、そういう人を応援したいなと思って書きました。
「I’m OK」は新しい私に生まれ変わるために必要だった曲
――そのフレーズのあとには、〈Don’t need no limitations, I’m open(制限などいらない。私はオープンなの )〉と続きます。実際、最近はオープンマインドで、それが今回の制作にも影響を与えているんですか?
aimi:めちゃくちゃ影響していると思います。「I’m OK」の話になっちゃうんですけど……。
――「I’m OK」は自己受容がテーマでしたよね。
aimi:「I’m OK」は、声帯の手術をしてから回復していくまでの間に感じていたことを書いた曲なんです。いったん立ち止まって今の自分をまるっと受け入れてあげることがまずは必要なヒーリングなんじゃないかと思って書いたんですよね。
――今の状況を受け入れてあげようと。
aimi:完璧じゃない自分とか、立ち止まって考えてしまっている自分。あれも欲しいこれも欲しいとないものねだりになっている自分。そんなすべてを丸ごと受け入れて、こんな私でもまだまだ行けるんじゃないかっていう思いで書いたのが「I’m OK」=このままでOKっていう曲だったんです。
――そんな時期を経たからこそのオープンマインドだと。
aimi:そうです。「I’m OK」で昔の自分が死んだというか。2021年から2023年の私がひとつの章だとしたら、それが終わったという感じなんですよね。
――自ら区切り線を引いた感じですか?
aimi:「I’m OK」で清算された感じがありますね。喉の問題はここ数年の課題でもあったし、それが解決されたことで精神的にもすっきりして生まれたのが「I’m OK」なので。新しい私に生まれ変わるために必要だった曲。だから、これからリリースする曲はより自由だし、オープンだと思いますね。遊び心を入れられるようになってきているし、音楽をすごく楽しんでいる感じがあります。
――手術後、声はどう変わったんですか?
aimi:以前より軽くなりました。逆に言うと低音域の成分はちょっと減ったかもしれない。ちょっと明るい声になったように思います。というのも、それまでは音程がフラットしがちなタイプだったんですけど、手術後はシャープするようになったんです。
――そこまでの変化があるんですか?
aimi:ありますね。手術後にリハビリと一緒にボイトレを始めたんですけど、時間の経過と共に声が変わっていったし、手術前にはできなかった発声や歌唱ができるようになってきました。
――ファルセットひとつにしても声の出し方が全然違う?
aimi:全然違います。1st EP『Water Me』を聴き直していただくとわかると思うんですけど、あまり無理をしていない発声だからこそのナチュラルさがある。それが味にも聴こえるんですけど、今は高くも低くも、ハードにもソフトにも、抑揚もスピードもコントロールしやすいし、レコーディングとライブで歌い方の使い分けもできるんです。自由度がすごく上がったし、いろんな表現ができる。だから音楽が楽しいというところがありますね。
ーーそれは大きな変化ですね。
aimi:一番大きかったのは「私、まだ上手くなれるんだ」って。それが何よりも救いでした。手術前は年齢的にも下降線をたどっていくんじゃないかと怖かったんです。でも今はこんなこともしてみたい、あんなこともしてみたいって向上心が強まっています。そういう意味ではこれからの自分にすごくワクワクしています。