渡辺淳之介「実質的な経営業務に興味がなくなった」 BiSH解散、ロンドン渡航と海外展開――WACKの現在地

渡辺淳之介、なぜロンドンへ?

 ロンドンから一時帰国した渡辺淳之介は、変わっていないどころか、誰も自分を知らないロンドンに身を置き、2010年のBiS始動時に戻ろうとしているかのようだった。

 一方で、2023年6月のBiSH解散以降、渡辺が代表取締役を務めるWACKでは、メンバーの退所も続いている。多くのアイドル、アーティストが所属するWACKの社長として、渡辺はどう考えているのだろうか。久しぶりに日本の空気を吸った渡辺に聞いた。(宗像明将)

「実質的な経営業務に興味がなくなっちゃったんですよね」

――渡辺さんが今日本に戻ってきているのは、一時帰国なんですか?(取材は3月上旬に実施)

渡辺淳之介(以下、渡辺):(スタッフに向かって)なんで戻ってきたんだっけ? でも、アイナ(・ジ・エンド)のライブがあったり、いろいろあったので。来週にはくだらない1日と『SXSW 2024』に向かうから、テキサスのオースティンに行って1週間ぐらい滞在して、3月末にはロンドンでWACKの公演(『WACK in the U.K. Vol.2』)があるからロンドンに戻って。ロンドンにフラットを買ったんで、最終的にロンドンに移住できたらなあ、という感じです。

――そもそも、なんでロンドンに行ったんですか?

渡辺:やっぱりロンドンといえばSEX PISTOLSだし、自分の好きなカルチャーはUK発祥が多くて。大好きな音楽の発祥の地で、僕自身も音楽を伝えられたらいいなと思ったんです。5年前に初めてロンドンに行ったんですけど、国民性が日本人に似てる感じがしました。それで去年10月に家を買って、引っ越しをして、ついこないだまでは語学学校に通ってました。全然英語はできないんですけど。

――コロナ禍からリモートワークも増えましたが、社長がリモートで事務所は回るものなんですか? ASPの武道館公演開催も、メンバーにはリモートで伝えてましたよね。

渡辺:会社経営というか実質的な経営業務に興味がなくなっちゃったんですよね。会社って、もちろん社長も大事なんですけど、BiSHが終わったタイミング(昨年6月末)で、社員もパタパタといなくなって、その時に「うん、そうだよな、WACKは泥船だよな」と思ったんです。BiSHがいなくなったら売り上げの半分以上がなくなるわけで、未来も見えないし。それ自体は個人の自由だし、全然よくて。そこで「自分が間違ってたな」って思ったんですよ。会社の代表として「社員を食わせなきゃ」とか「アーティストを育てなきゃ」とか、ちゃんとしなきゃいけないと必要以上に考えていて、全部やってたらそれすらちゃんとできるはずないんですけど、それによって自分がなんで会社を立ち上げたのかっていう気持ちを忘れていたなと思って。それは自分のためだったなって。社員もメンバーも自分の人生だからそういう選択をするんだろうし、別に「俺のことを考えてくれよ」とも思わないし、ただただ「そうだよな」と思ったんです。メンバーも、さまざまな理由がありますけど辞めちゃう子もいるわけじゃないですか。そう考えると、「あれ? 俺は自分のやりたいことを犠牲にしてまで何かをしなきゃいけないのかな?」って。びっくりすると思うけど、ロンドンに行くまで、経理とかもろもろの、たとえば振り込み業務とかのいっさいを全部自分でやってて。だけど、「こんな細かいことばっかりやってるから俺は新しいことができないんだ」と考えた時に、「全部投げちゃえばいいんだ」って思ったんです。

渡辺淳之介

――それで本当に捨てちゃったんですか。

渡辺:今みたいな生活をしていたら間違いなく一生は絶対食えないし、だからこそ新しいことをしないといけないので、全部自分でやっていた経理も一度社員に任せてみるか、と。逆に言ったら僕に責任があるのは資本でしかなくて、まあ極論言えばWACKが潰れたとしても、一旦は路頭に迷うかもしれないけど社員もアーティストも別に生活はできるしって考えたらすごい気持ちが軽くなって、「ロンドンに行かなきゃ!」みたいな感じで。誰も自分のことを知らないロンドンに行こうと思いました。

――ロンドンに行ってみて、WACKはしっかり回ってますか?

渡辺:それまでは一挙手一投足が気になってたんですよ、遅刻してくるとか、ダラダラしてるとか。でも、よく考えたら別にどうでもいいんですよね。回らなかったら、それは最終的に僕のせいだし、その時はその時で会社が潰れるだけなので。社長がひとりで年商十億超の経理をやりながら、プラン考えて、プロモーションして、作詞もして、営業して、企業とコミュニケーションを取ったりしていたこと自体が異常だったんです。「そこまでひとりでやる必要なかったな」っていうのが正直なところかもしれないですね。

――でも、だからこそBiSHの成功があったわけじゃないですか。そのシステムをやめてしまう、と?

渡辺:そのシステムをやることによって、社員の可能性を潰しているというか。むしろマイナスだろうなと思って。

――2022年にインタビューした時、渡辺さんは「『社員はこういういい環境で働いてたほうが気持ちいいだろうな』とか、そういうところも含めて、『みんなの幸せ』みたいな部分に目的がシフトしてるかもしれないですね」と言ってましたよね(※1)。

渡辺:やっぱ人間って考え方が変わりますよね(笑)。幸せは俺が与えるんじゃなくて与えるとか烏滸がましいし、自分自身で勝ち取らないとじゃん、って。でも、そう考えたらすげえ楽になって。かつてサラリーマンだった時も、お金の面さえきっちりしていれば相当自由にやらしてもらえてたから、自由にやらせてみたほうが社員からヒットコンテンツが生まれるかもしれないし。社員がヒットコンテンツを出してくれたら、僕はもう何もしなくていいですからね。挑戦できることがいい形で会社に跳ね返ってくれば、それがいちばんいいと思いますし。

――日本から旅立ってみて、WACKのロンドン公演の感触はいかがですか?

渡辺: WACKはファンクラブツアーもなしにして、むしろ日本人にはわからないように全部英語で案内したら現地の人がいっぱいきてくれたんです。初期BiSを始めて20人ぐらいの客から始めた時よりも、全然可能性があるんですよ。自分はロンドンでできることをやろう、というモードになりましたね。

――英語は話せるようになったんですか?

渡辺:全然しゃべれないですよ! 何を言ってるかわかんないし、何を言っていいかもわかんないし、ヤバイです。語学学校で若い子たちに混ざってるんですけど、16歳のウクライナ人に「もうちょっとボキャブラリーを学んだほうがいい」と言われて。

――あはは! 日常生活では普段何をやってるんですか?

渡辺:リモートで仕事して、英語の勉強をして、夜は向こうで仲良くなった子たちや業界の人たちと飲んだり。急務でやらなきゃいけないのは英語なので、1日8時間ぐらい英語にあててます。1週間前に日本に帰ってきたんですけど、そうしたらどうしても英語の欲が伸びなくて、なんか性欲が爆発しちゃって。1週間ぐらい、オナニーしかしてないです。めっちゃしてます。

渡辺淳之介

――それも記事に入れますんで。ロンドンで入院までしてましたよね。

渡辺:大腸憩室炎になっちゃって入院したんですけど、何を言ってるかわかんないから、もしかしたら医療事故で死ぬかもしれないって。でも、心配してくれたイギリス人の友達と喋ったら「Everyday is an adventure」って言っていて、たしかにアドベンチャーだなあ、と思いましたね。あとは、ロンドンにいると自分の好きなバンドとかが普通にライブをやってるんです。日本だと関係者として入ることが多くて、それだと好きでも仕事みたいになっちゃうじゃないですか。昔ライブにひとりで行っていた高校生、大学生時代みたいな感じで観れるのも、すごく楽しいですね。

 

――ロンドンでめちゃくちゃ刺激を受けてますね。

渡辺:日本がどれだけ特別な国か、すげえよくわかるんです。移民も多くてめちゃくちゃイギリスはダイバーシティだから。信仰してる宗教も多様だし、たとえばビーガンの人もめちゃくちゃ多いから、マクドナルドでもステーキ屋さんでもビーガンのメニューがあるんです。最近は日本も見つけられるようになりましたけど、まだまだビーガンの人たちは日本で生活するのは厳しいですよね。みんな違ってみんないいっていう意味を日本よりも感じられるっていうか、文化の違いはめちゃくちゃ刺激受けてますね。

――ロンドンで観ていちばんよかったアーティストは?

渡辺:ABBA(ABBA VOYAGE)じゃないですかね。ABBAアリーナでもう一年ぐらいやってるんですけど、1万人ぐらい入るアリーナが毎日満員で、でもステージには誰もいないんですよ。天井までちゃんと電飾があって、天井を使った演出もあるし、舞台装置も規格外。うちも規格外のことを頑張ってやろうとしてたほうですけど、もっと規格外で。マーケットが世界だからこそお金をもっと使えるんだろうなって。両手をあげて海外万歳とは思ってないけど、視点は世界に向かないといけないなと思いますね。

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