LDH JAPAN、アジアで掴んだグローバル進出の手応え 「J-POPを売り出すのは今がチャンス」
アジア各国が求める新しさ K-POPの次はJ-POP
ーーアジア諸国では日本のアニメや漫画などが浸透していながら、近年はあまりJ-POPがヒットしている印象はありませんでした。なぜでしょうか。
石井:日本の音楽市場が盛り上がっていた90年代から2000年代の初頭までは、アジア諸国でもJ-POPが聴かれていました。だから、EXILEやバンド系などのアーティストは今でも知名度があります。しかし当時は今ほど情報環境が整っておらず、また日本に大きな市場があったため、音楽業界はあまり積極的に海外市場を開拓してきませんでした。そこにK-POPが登場し2000年代以降になるとK-POPをはじめとしたKカルチャーがJ-POPを上書きし、J-POPの存在感は徐々に落ちていきました。日本のアニメや漫画は依然として人気ですし、アニソンも浸透していますが、それを上回る韓国のドラマや映画、K-POPの進出があります。実際、バンコクの街中はKカルチャーに溢れています。実際に東南アジアへ進出する前に行ったリサーチでは、若者たちの意識として「最先端」「かっこいい」のイメージは韓国が高く、日本は「安心」「安全」というイメージで、もはや若者たちが憧れないものとなっていました。
しかしながら、各国のメディア関係者に話を聞くと、この10年K-POPだらけだったので、次の新しいものを求めていると。そこで期待しているのはJ-POPだということを言っています。実際にJ-POPのヒットは出はじめていますので、再びJ-POPを売り出していくのは、今がチャンスだと感じています。
ーーLDH JAPANのアジア進出は、各国との協力関係を強化するという意味で、社会的な意義も大きいと感じます。
石井:そうですね。経済面ではすでに連携ができていると思いますが、カルチャーでの交流がさらに活発になると、双方にとって有益だと思います。昨今のアジア諸国の音楽シーンはK-POPが席巻している状況で、日本のカルチャーというと漫画/アニメ関連のコンテンツが流行しているぐらいです。J-POPを再び浸透させるには、やはりアーティストが現地でしっかり活動していくのが大事だと感じています。
BALLISTIK BOYZもPSYCHIC FEVERも訪れた国では、日本人学校やローカルの学校でダンス教室を開催するなど、日本でLDHが「Dreams For Children〜子どもたちに、夢を〜」をテーマに社会貢献活動を行っているのと同じように、ビジネスとしてだけではなくエンタテインメントでその国の社会に少しでも貢献できればという想いで活動しています。
ーー東南アジアのマーケットには、他にどんな魅力がありますか?
石井:K-POPアーティストが頻繁にアジアツアーをしているように、ライブ市場も大きく発展しています。現地では席によってチケット代が違うのも当たり前で、前方の席では日本円にして5〜6万円というケースもあります。チケット価格を弾力化する是非はさておき、新たなライブ市場の開拓という意味でも東南アジアは魅力的です。
ーー東南アジアで活動をする上で、課題となっているのはどんなことでしょうか。
石井:いかにしてローカルの音楽コミュニティに食い込んでいくのかは課題でしたが、タイでは現地の音楽シーンを牽引するHIGH CLOUD ENTERTAINMENTと4NOLOGUEとパートナーシップを組んだことで、想像以上の結果を残せたと思います。現地アーティストとのコラボレーションで知名度は上がりましたし、さまざまな会場でパフォーマンスしたことで実力も評価されつつあります。
現地の日本人に頼るだけではなく、現地のローカルパートナーと関係をしっかりと築くことが重要だと思います。BALLISTIK BOYZとPSYCHIC FEVERが現地に住んだことが大きいと思いますが、本気だということが伝わったことが一番大きかったと思います。
プロモーションに関しては、国内と海外で線引きをするのではなく、日本と同タイミングで現地でも新譜の情報がシームレスに回るような状況を整えることを目指してきました。中長期的なプランを練って、現地のエンタテインメント企業やメディアとの関係性を深めています。アーティストが現地の言葉で、現地メディアのインタビューに応えたりと、タイで培ったノウハウはそのまま東南アジア諸国での展開にも活かせています。
ーー現地の企業とのコミュニケーションには、苦労も多いのでは?
石井:ASEAN加盟国は10カ国ありますが、それぞれに文化も民族も宗教も異なるので、その国をちゃんと理解して最適なコミュニケーションを取る必要があります。例えば仏教国とイスラム教国では、できることが異なっています。タイは仏教国で穏やかな方が多い一方で、「マイペンライ(問題ない)」の精神があるので、とてもマイペースです。それぞれの国民性をちゃんと理解して尊重しないことには、日本の文化への共感も得られないので、そこはすごく気を遣ってきました。日本の感覚ややり方を押しつけないことですね。郷に入れば郷に従えで、尊重した上で日本のクオリティをどこまで発揮できるかが毎回の課題となってます。日本での「当たり前」はほぼないので、日本がいかに恵まれた環境なのかを痛感することは多々ありました。ただ、この2年でグローバルなマナーや対応の仕方はかなり身につけられたと思いますし、アーティストたちもタフになったと思いますので、今ではその点は他のアジア諸国でもあまり心配してないですね。
LDH JAPANが見据える“ONE ASIA”の時代
ーー東南アジア諸国での活動が本格化する一方、2023年7月に日本国内で開催されたライブ『BATTLE OF TOKYO ~CODE OF Jr.EXILE』では、タイからF.HERO、TRINITY、DVIらを招聘し、Jr.EXILEメンバーと共演を果たしました。日本のファンの反響はいかがでしたか。
石井:『BATTLE OF TOKYO ~CODE OF Jr.EXILE』に来場していたのは、Jr.EXILEメンバーのファンだったため、どうなるかは未知数でしたが、蓋を開けてみたら想像以上の盛り上がりで驚きました。F.HEROさん世代のタイの音楽シーンはJ-POPに大きな影響を受けているので、親和性が高かったんでしょうね。Jr.EXILEメンバーたちもすごく楽しそうにパフォーマンスしていましたし、ファンの方々も彼らが国際的な活躍をすることに期待を寄せてくださっているのだと思います。タイのアーティストには彼ら特有のアイデンティティがありますし、EXILE TRIBEにも他にはないアイデンティティがあるので、いずれはアジアという括りで、ONE ASIAとして「A-POP」と呼ばれるようなオリジナリティのある表現ができるかもしれません。
ーー現地シーンと相互に交流ができたのは素晴らしい成果だと思います。改めて、2024年はどんな展開を目指していますか。
石井:東南アジア各国での活動量をさらに増やして、盤石な体制を整えていきたいです。今はまだ各グループが音楽フェスや小さなホールを回るという規模感ですが、あと3年以内にそれぞれ単独で各国のアリーナクラスの会場を埋められるくらいのグローバルアーティストに育てていきたいです。THE RAMPAGE、BALLISTIK BOYZ、PSYCHIC FEVERの3グループが進出しましたが、NEO EXILEの各グループもアジアで活躍できる可能性を秘めていると思いますので、しっかりと準備してチャンスがあればどんどんアジアで経験を積ませていきたいですね。
ーーK-POPのアーティストは、実際にそのくらいの規模感になっていますね。
石井:そうですね。K-POPは日本を含めアジア全体をマーケットとして見てきたからこそ、その規模感に達することができたのだと思いますし、日本からの発信でも同じことはできるはずです。実際、K-POPのグループには日本人やタイ人やベトナム人が加入していることも珍しくないですし、いまや各国にK-POPの影響を受けたダンスボーカルグループがあります。各国それぞれの特色がありながらも、音楽シーンにおけるアジア諸国間の壁はなくなりつつあるのではないでしょうか。特にタイの田舎のダンス教室からBLACKPINKのLISAが登場し、世界的なスターになったことは、東南アジア中の子どもたちに夢を与えています。アジアンドリームを夢見る熱気や勢いを日本よりも感じます。
はじめに言ったことの繰り返しになりますが、東南アジアは若者の人口が増え続けていて、近い将来、世界を席巻するようなマーケットの一つになる可能性を秘めています。BALLISTIK BOYZとPSYCHIC FEVERは、すでに東南アジア諸国で様々な経験を積み、アジアを代表する意識でアジア人としてのアイデンティティに根ざしたアーティスト活動を続けてきました。BALLISTIK BOYZは完成度の高いパフォーマンスが評価されて「Drop Dead」がロングヒットになっていますし、個性的なメンバーが揃っているPSYCHIC FEVERはアジアの多様性を表現するグループとして諸外国に認知され、これまでの活動の積み重ねが、今の「Just Like Dat」の世界的なバズに繋がっています。日本から世界を目指す夢を持った子どもたちにとって、目標となるようなグループになることを願っています。これからアジア各国がさらに成長してくるので、アジアの音楽シーンはとても面白いものになると感じています。
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