LDH JAPAN、アジアで掴んだグローバル進出の手応え 「J-POPを売り出すのは今がチャンス」
LDH JAPANが2022年より注力しているグローバル戦略が、着々と成果を挙げつつある。Jr.EXILE世代と称される若手グループのBALLISTIK BOYZとPSYCHIC FEVERは、2022年9月『バンコク日本博2022』に出演したことを皮切りにタイでの活動を本格化。現地の音楽業界を牽引するラッパー F.HEROが率いるHIGH CLOUD ENTERTAINMENT、ライブ制作やマネジメントを行う4NOLOGUEとパートナーシップを結び、同年末には東南アジア最大級の音楽フェス『BIG MOUNTAIN MUSIC FESTIVAL 12』に出演して話題を呼んだ。
翌2023年2月には、タイのアーティストとコラボレーションしてリリースした楽曲が、現地の主要チャートであるT-POP WEEKLY CHARTにランクイン。BALLISTIK BOYZとTRINITYによる「Drop Dead」は初登場4位、PSYCHIC FEVERとDVIによる「To The Top」は初登場7位を記録し、タイの音楽シーンに確かな足跡を残した。
勢いは止まらず、8月にBALLISTIK BOYZがタイの俳優兼アーティストのGulfとコラボした「All I Ever Wanted」は同チャートで初登場5位。9月にPSYCHIC FEVERが17歳のラッパーSPRITEとコラボした「FIRE」は初登場2位を記録し、さらに4週連続でトップ5位以内にランクインするヒット作となった。
先陣を切った2グループに続き、同年末には兄貴分にあたるTHE RAMPAGEも2022年9月に『バンコク日本博2022』、2023年12月に『PEPSI PRESENTS BIG MOUNTAIN MUSIC FESTIVAL 13』に出演しタイで大きな注目を集めた。BALLISTIK BOYZとPSYCHIC FEVERはタイでの成功を踏まえて、マレーシア、シンガポール、インドネシア、ベトナムにも活動の場を広げている。日本の音楽シーンにとっても、極めて先駆的な試みといえよう。
そして、この2年間の活動でアジア各国にファンダムを築いたPSYCHIC FEVERの「Just Like Dat feat. JP THE WAVY」(2024年1月19日配信)が、シンガポール、マレーシア、フィリピンでバイラルチャートのトップ5圏内へランクイン、さらにベトナム、タイ、韓国、台湾、日本を含むアジア8カ国でもチャートインを記録した。さらに、TikTok上でのヒットでアジアからアメリカへバズり、TikTokでの総再生数も1億回を突破している。
LDH JAPANのグローバル戦略を率いるグループ戦略本部エグゼクティブストラテジスト・石井一弘氏に、その挑戦の歩みを振り返ってもらった。
アジアはエンタテインメントの成長市場に
ーーLDH JAPANは2022年より、BALLISTIK BOYZとPSYCHIC FEVERをタイで活動させるなど、アジア進出に力を注いでいます。なぜ今、アジア諸国に活動の場を広げているのですか?
石井:現在、日本の音楽市場はメインターゲットとなる15〜34才の人口減少に比例して年々縮小しています。1990年代後半のピーク時は約3500万人市場でしたが、近年は大体2300万人程度の市場に縮小してしまいました。このまま少子化が進めば、日本の音楽市場は衰退していく可能性が高いでしょう。一方で、世界の音楽市場に目を向けると、「Global Music Report 2023(IFPI:国際レコード産業連盟)」によれば2014〜2022年の間に市場規模が約2倍に成長しています。世界規模で見れば音楽は成長市場であることが見えてくるわけです。さらに細かく見ていくと、日本を除いたアジアの音楽市場の成長率は非常に勢いがあることがわかります。ASEAN人口の約25%がいわゆるZ世代で、その人数は1億6400万人にも上り、今後の経済成長力も高く、しかも親日国が多い。日本の音楽業界を今後も存続/発展させていくためにも、エンタテインメントの主要な消費者層である若者が多いアジア諸国への進出を目指しています。
ーーアジア諸国の中でも、まずタイに着目したのはなぜでしょうか?
石井:タイはよく知られるように昔からの親日国ですし、在留邦人は今現在で8万人近くいて、日本企業も多く進出しています。エンタテインメント業界も発展していて、子どもの頃から日本のアニメや漫画に触れてきたという若者も多くいます。まったくのアウェイではないので、まずはタイで実績を重ねて、そこから他の東南アジア諸国に拡大できればと考えていました。実際、2023年の後半からはマレーシア、シンガポール、インドネシアにも活動の場を広げており、PSYCHIC FEVERはベトナム・ホーチミンで開催された同国最大級のフェスである『HOZO MUSIC FESTIVAL 2023』にも出演しています。さらにタイでは、タイのトップアーティストが出演する大晦日に開催されるアジア最大級のカウントダウンライブであり国民的なイベント『centralwOrld Bangkok Countdown2024』に出演しました。一度、その国で良いパーフォーマンスを見せて評価されると、他のイベントへの出演オファーも来るなど、良いサイクルができてくるので、2024年はさらに彼らの活動が各国に浸透していきそうです。
ーータイでの成功体験が、他の東南アジア諸国での活動にも活きているのですね。
石井:そうですね。BALLISTIK BOYZとPSYCHIC FEVERのメンバーは、アーティストとしても人間としても、この2年間で大きく成長したと思います。現地で暮らしながら多くの人々と出会い、それぞれの国の文化や価値観を積極的に学んだことで、どこに行っても自信を持って自分たちのパフォーマンスをすることができるようになっています。単にツアーの一環として各国を回るのではなく、彼らはそれぞれの国の文化をリスペクトしながらパフォーマンスをしています。バックステージでは現地のアーティストと交流し、ライブのMCにも現地の言葉を織り交ぜるなどして、各国それぞれの音楽ファンにアプローチしている。グローバルに活動するアーティストとしての姿勢が培われていて、それがちゃんと伝わっている印象です。それに、東南アジアの方々は音楽に対する反応が素直というか、歌って踊るのが好きなので、ライブもすごく盛り上がります。
ーー2023年末にはTHE RAMPAGEも『PEPSI PRESENTS BIG MOUNTAIN MUSIC FESTIVAL 13』に出演しました。現地での反響はいかがでしたか。
石井:K-POPブームの影響もあり、ダンスカルチャーを軸としたボーイズグループはタイでも人気です。2000年代にはEXILEも人気でしたし、EXILE TRIBEならではのボーカルとパフォーマーで役割分担をするという表現は、K-POPとはまた別の魅力を打ち出せています。中でもTHE RAMPAGEは、16人という大所帯でのパフォーマンスが最大の特徴で、THE RAMPAGEのような豪快なダンスパフォーマンスを見せるグループは他にないため、『PEPSI PRESENTS BIG MOUNTAIN MUSIC FESTIVAL 13』では確実にインパクトを与えられたと思います。ライブは盛り上がりましたし、関係者の評価も高いものでした。また、メンバーたちにとっても良い経験になったようで、「異文化に触れて視野が広がった」「価値観が変わった」という声もありました。日本以外の音楽シーンに目を向け、リアルに体験することは、これからのアーティストにとって非常に大切なことなのではないかと感じています。