a子とはどんなアーティストなのか? “繋がり”から生まれるもの、ポップへの強い意識

a子「惑星」インタビュー

 シンガーソングライター・a子が新曲「惑星」をリリースした。ポニーキャニオン/IRORI Recordsからのメジャーデビューシングルとなる本作は、UKロック、ガラージなどのテイストを取り入れたサウンド、印象的なウィスパーボイス、不安や痛みを抱えながら、どこかにあるはずの希望を求める歌詞が一つになったミディアムチューン。ハイブリッドな音楽性、詩情と哲学性を併せ持ったリリックなど、アーティストとしての特徴がポップに提示された楽曲である。

 作詞・作曲はもちろん、MVやビジュアルにおいても才能を示すa子に、これまでのキャリアと「惑星」の制作などについて語ってもらった。(森朋之)

「好き」と「嫌い」を集めることで見つかった、“a子”のイメージ

a子

——a子さんがクリエイティブに興味を持ったきっかけは?

a子:中学生のときに『The Voice』(海外で人気の音楽オーディション番組)を観ていて、メラニー・マルティネスというアーティストが出演していたんです。他の出演者の方が歌唱力で評価されるなか、メラニーは世界観や声の出し方で勝負していて。その後、Maroon 5のアダム・レヴィーンに見出されてデビューするのですが、彼女を見ていて、「自分なりの世界観や声の出し方を研究したら、自分もアーティストになれるかもしれない」と思ったんですよね。その前からやってみたいという気持ちはあったんですけど、「無理そうだな」と諦めかけていて。

——メラニー・マルティネスの存在を知って、「自分に合ったやり方があるかもしれない」と思えた?

a子:はい。それまではストレートな歌い方しか知らなかったんですけど、声の出し方にもいろいろあるんだなと気づいて。ビリー・アイリッシュが出てきたことも大きかったですね。自分に合った歌い方を模索しているなかで、ビリーの曲を聴いたことで、「ウィスパーがいちばん自分の声質にハマるかも」と思って。その頃はドリームポップもよく聴いていたので、その影響もあるかもしれないです。

——ドリームポップ系のシンガーも、囁くような歌い方が多いですからね。

a子:そうですね。上京してから一緒に曲を作り始めた中村エイジさんとも話しながら、いろいろと研究して。ビリーのインタビュー記事を読んで、「こういうマイクを使ってるらしい」「ミックスはお兄ちゃんのフィニアスがやってるみたい」とか。その前は自分でギターを弾きながら作ることが多かったんですけど、トラックメイカーだったり、バンド仲間が欲しいなと思っていて。そのときに出会ったのが中村さんだったんです。その後も模索しながら曲を作って、2020年から配信をはじめました。

——サウンドメイク、音像に関しても、a子さんのなかでイメージがあったんですか?

a子:音作りもいろいろと試しましたね。ビリー・アイリッシュやドリームポップのアーティストもそうですし、中村さんに教えてもらってハマったThe Internetとかも参考にしながら。私も中村さんもポップスが好きなので、デュア・リパ、アリアナ・グランデ、テイラー・スウィフト、エド・シーランのような海外のメインストリームの音楽、日本のポップアーティストも聴きます。最近はリスナーとしての幅もかなり広がっているし、柔軟にトレンドも取り入れていきたいと思っています。

a子(撮影=Goku Noguchi)

——a子さんは、ご自身が率いるクリエイティブチーム・londogのメンバーとともにMVやアートワークも手掛けていますが、映像、ビジュアルに興味を持ったきっかけは?

a子:MVを自分たちで作ろうと思ってから、映画をめちゃくちゃ観始めたんですよ。映画祭のYouTubeにアップされている作品だったり、1日1本のペースで観ていた時期もあって。そのなかでソフィア・コッポラやクエンティン・タランティーノの作品を好きになったり、あとは代官山の蔦屋書店でアートやファッションの本を見つけて、“好き”を集める作業もしました。同時に“これは嫌い”というものも集めるようにしていて。そうすることで自分の好みが鮮明になるんじゃないかなって。ある映画の台詞に「批評することが大事」というような言葉があって、私も本当にそうだなと思っているんです。映画にしても音楽にしても、自分なりに批評することで(作品に対するスタンスが)ハッキリするし、作品を作るときも迷わなくなると思うので。

——“好き”と並行して“嫌い”を集めるというのは、自分自身を知ることにも繋がりそうですね。余談ですが、タランティーノの監督第1作『レザボア・ドッグス』のデジタルリマスター版が上映されたじゃないですか。改めてあの映画を見て、その後の映画作家に与えた影響の大きさを思い知りました。

a子:そういう繋がりにもすごく興味がありますね。作品を観た人が何かを感じ取って、それが次の作品に繋がって。またそれを観た人が……という感じで遺伝しているというか。何からもまったく影響を受けないで作品を作るのは、たぶん無理だと思うので。ちなみに活動当初からの髪色も、デヴィッド・ボウイからの影響です。赤髪時代が特にカッコよくて憧れています。

「天使」や「あたしの全部を愛せない」で掴んだポップの感覚

a子(撮影=Goku Noguchi)

——これまでに発表したEPについても聞かせてください。1st EP『潜在的MISTY』は、全体を通してかなり憂いに満ちていて。

a子:そうですね。小学生の頃からネガティブな性格で、社会や人生に対して敵対心みたいなものがあって。そのことに対する自分なりの答えだったり、考え方を作品に落とし込むクセがあるんです。学生のときに感じていた不安を回収するというか、そのときの自分を助けてあげているような感じもあって。『潜在的MISTY』や『ANTI BLUE』(2nd EP)にはそれがかなり出ていると思います。

——『ANTI BLUE』に収録された「天使」にはダンサブルな要素も。このあたりは“音楽そのものを楽しむ”という感覚も反映されているんでしょうか?

a子:ポップであることだったり、「多くの人に聴かれるために」ということも常に考えていて。好きなように作ると暗くなりがちなんですけど、「天使」で初めて「何か掴めたかもしれない」と思えたんですよね。もともとロックが好きで、「歪んだギターと別のジャンルを組み合わせてみたい」と模索していて。「天使」ではハウスミュージックと組み合わせることで、上手くハマった感覚がありました。4つ打ちを取り入れたのもこの曲が初めてですね。

a子 - 天使 : MUSIC VIDEO (Ako - Angel)

——3rd EP『Steal your heart』ではジャンルの融合がさらに進んでいますよね。ファンクの要素がある「trank」、ドラムンベースとジャズが混ざった「samurai」だったり。

a子:組み合わせ方のコツがちょっとずつわかってきたのかもしれないです。ポップを意識していても、音作りを進めていくうちに“カッコいい”のほうにどんどん向かってしまうことがあるので、そこは気をつけないといけないんですけど……。「新しいジャンルを作る」というのも大きな目標です。音楽には長い歴史があって、いろんなことがやり尽くされている。新鮮に聴こえる曲を作るのはすごく難しいと思うけど、ジャンルの組み合わせ方によってはそれができるかもしれないなと。「こんなの聴いたことがない」というものをポップに昇華したいというのはずっと思ってますね。「あたしの全部を愛せない」(EP『Steal your heart』)は、たくさんの人に聴いてもらうことを特に考えていて。音作りにもこだわりながら、ポップであることを最後まで意識して制作できた曲ですね。

a子 - trank : MUSIC VIDEO
a子 - あたしの全部を愛せない : MUSIC VIDEO (Ako - All to myself)

——なるほど。“a子”はすごく匿名性が高い印象がありますが、これをアーティストネームにしたのはどうしてですか?

a子:おっしゃるとおり、まさに匿名性の高い名前にしたかったんです。ミステリアスなほうが自分の作りたい世界観にも合うだろうな、と。あとは英語と漢字の組み合わせにしたかったんですよね。パッと見たときに、ちょっと変な感じがするというか。

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