DEZERT、音楽やライブに向き合う考え方の変化 メジャーデビューを機に千秋&Miyakoに聞く
ヴィジュアル系といえば、妖しく激しく、どこまでも過激に狂い咲くもの。そんな先入観を持っていたので、DEZERTの新作『The Heart Tree』には驚いた。メタリックでダークな曲も多いが、ニューウェイヴの柔らかな情緒、歌謡曲に通じる懐かしさも散りばめられ、何より曲がとてもポップである。希望に溢れた歌詞は少ないのに、長らくライブのみで披露され、今回初音源化となったラストの「ともだちの詩」までを聴き終えた時、あたたかい気持ちが胸に残る。この作品でメジャーデビューとなる彼らは、広い音楽シーンに、もしくはリスナーに何を起こそうとしているのか。ヴィジュアル系の毒気に憧れたルーツと、人として幸せを求めるまっすぐな気持ちを、矛盾なく語れる今。千秋(Vo)とMiyako(Gt)に話を聞いた。(石井恵梨子)
今さらメジャーデビューっていう響きが面白い
一一今回、資料には「V系シーン最後の大物が遂にメジャーデビュー」とあるんですが、こういう言葉は自分たちに相応しいものだと思いますか。
千秋:いえ、全然。
Miyako:まぁ書いてもらえるのは嬉しいですけどね。でも思ったことはない。「V系シーン最後の大物」とか。
一一「最後の大物」は別として「V系シーン」のバンドと言われることは?
Miyako:高校の時からヴィジュアル系やりたいなぁと思ってバンド始めて、ずっとやってきたので。普通に嬉しいですね。
千秋:俺は、今は何も思わないです。思った時期もありましたけど。
一一「V系」って扱いが難しい言葉で、音楽性を指しているわけでもないし、呼ばれることを嫌うバンドもいる。ただ、DEZERTはとても自覚的にV系をやっている印象があります。
千秋:わざと、ですね。ここ数年はわざと言ってるような気がする。ルーツがそうなだけで、実はどうでもいいというか。あんまり気にしてないからこそ逆に言ってるんじゃないかな。SORAくん(Dr)とか。
一一『V系って知ってる?』(2023年のタイトルは『V系って知ってる!』)というイベントを主催してますね。
千秋:そうです。サムいっすけどね。客観的に見て、俺がヴィジュアル系を知らなかったらすごいサムいと思う。だから、逆にヴィジュアル系を知らない人を取り込もうという観点ではなかったと思うんです。
一一好きな人たちだけで、改めて盛り上がっていけばいい?
千秋:もともとは、好きな人たちだけが集まる音楽だと思ってて。学校では誰もヴィジュアル系を知らなかったんですよね。その中で、俺と友達の二人だけが好きで。少数派であることが格好いいって中2の心で思ってたんですけど。でも、俯瞰で見れば好きになる人が多いほうがいいと思うし、そのほうが影響力があるに決まってる。せっかく先輩たちが作ってくれたシーンにいて、恩恵を受けてきたんだから、その恩恵は最大限まで広げていこうと。そういうマインドは、ウチのバンド、あります。
一一その意味で今回メジャーを選択したところも?
千秋:それはないっすね。今さらメジャーデビューって響きが面白いじゃないですか。ただ「メジャーデビュー!」って言いたかったんですよ。
Miyako:メジャーに絶対行きたいとか、意識したことはないよね。メジャーデビューしたからどうっていう世代でもなかったから。
一一お二人は、ヴィジュアル系がブームではなくなっていく様子を見てきた世代、とも言えるんでしょうか。
千秋:どうなんだろう? いや、全然、the GazettEがCMとか出てたし。
Miyako:ネオ・ヴィジュアル系って言われてて。
千秋:そう。だから流行ってたっすよ?
一一私は今40代で、その前の大ブーム、スターがいっぱい出てきた時代を知っているから、余計にそう思うのかもしれないです。
千秋:あぁ、確かにそことは違いますよね。スターを求めてたわけじゃない。ダークヒーローのイメージがすごく強かった。バンドが横浜アリーナとかに人を集めて、みんなでヘッドバンキングしてる、その異様な光景に俺は心奪われたので。「周りには(好きな人が)いないけど、でも一万人くらい集まってんねやろ? すごない?」みたいな。そのワクワク感が俺の中でのヴィジュアル系でしたね。
一一あぁ。ただ健全なものではなかった。
千秋:全然健全じゃない。すっごく独特の文化。当時は「魔法のiらんど」っていう投稿サイトが流行ってて。ヴィジュアル系が好きな人って周りにあんまりいなかったですけど、だからこそ独自のコミュニティがあって。ちょっと可愛い子にメッセージなんか送っちゃったりして。「僕はthe GazettEが好きです。何々は知ってますか?」とか。超不健全!
Miyako:「前略プロフィール」とかもあったよね?
千秋:「前略プロフィール」! 俺はね、自慢なんだけど作ったことない。あれはサムいとその時から思ってた。俺はもっぱら「魔法のiらんど」。
Miyako:あれ今残ってたらすごい黒歴史(笑)。俺も“本命盤”とか書いてたもんな。高校生だったんですけど、普通の人が知らないバンドを好きって言ってる自分も好き、みたいな。
一一そういうの、みんなありますよね(笑)。
Miyako:だって俺、高校生の時のあだ名「V系」でしたもん。
千秋:ははははは! やば!
Miyako:「V系」って呼ばれてた(笑)。でもやっぱ、周りのみんなが知らないとはいえ、ネオ・ヴィジュアル系って呼ばれた中から頭角を現すバンドがいくつも出てきて、友達に聴かせたら好きになってくれたり。いい音楽やってるなら、別にヴィジュアル系が好きかどうかは関係なく、いいなと思ってもらえるんだなって思いましたね。
昔より、幸せになるのは自分次第だなって思うことが増えてきた
一一DEZERTは、そうしたある種異様な文化への憧れを持ちつつも、聴けばいい曲だと思えるポップさ、人をもっと増やそうと言えるメジャー志向が、自然と同居しているバンドなんですね。
千秋:もちろんブレてた時期はあるんですよね。ちょっと地下アイドル化に拍車がかかってきたのが俺らの世代でもあって。ポラロイド売ったり。売ること自体は全然いいんですけど、ポラロイドを集めさせる行為って、やっぱりどうしてもライブとかけ離れていくから。
一一とにかくお金を使わせる、いわばホスト、キャバクラ的な商法というか。
千秋:うん。そこに依存してしまっている業界に危惧はあって、ヴィジュアル系って名乗りたくない時期はありましたね。「この沼から抜け出さないといけないんじゃないか」「もっと広い海へ出よう」って思ったり。それでフェスとかサーキットイベントにも出たりしたけど、そこで戦う労力が大変すぎて。とにかくやるべきことをやろう、っていうふうになりましたね。それで冒頭に戻る。V系って言葉に対して今は何も思わない。
一一V系が主題ではなく、自分たちのやるべき音楽を。今回のアルバムはすごく聴きやすいし、誰かのために作られた作品だなと思うんです。
千秋:はい。今はそういう心なのかなと思います。誰かのために音楽をやるのが自分のためだ、と思っているので。昔はもっと必死だったし、わかってほしい、っていうのが一番デカかった。
一一続けることでモチベーションが変わってきたんでしょうか。
千秋:んー……バンドを通じて幸せになりたいって思った時に、「俺はこういう人間だからわかって」って吠えるだけでは虚しくなる。もちろん理解してくれる人が増えてくれたら嬉しいですけど、結局元に戻る。
一一どういうことですか?
千秋:「自分のことをわかってほしい!」「わかってくれた、やったぁ」を繰り返しても、それだと自分の話だけ。パーソナルなことだけを伝えても虚しいんですよ。だったらライブに集まる人たちが増えてきた今、この人たちが「今日楽しかった、なんか人生変わった気がする」って思ってくれたら、それが俺の幸せ。そういう価値観。だからモチベーションっていうより……考え方ですよね。昔に比べて変わってきたと思います。
一一幸せになりたいって、人として正しい、まっとうな言葉ですよね。それはヴィジュアル系に惚れ込んだ時の、異様なものにワクワクした感覚と、相容れるものでしょうか。
千秋:どうなんですかね? 初期衝動の話をしましたけど、あの時は別に幸せじゃなかったですよ。マイノリティな感覚に惹かれたし、病める美学みたいなものもあったし。そもそもバンドって「世界を変えてやるぞ!」みたいな気持ちでみんな始めると思うんです。世界ってワールドのことじゃなくて、ヴィジュアル系のシーンでもいいし、聴いてくれる人の意識でもいい。とにかく何か変えたいっていうのは今もあるんですけど。
一一はい。
千秋:ただ、今は目の前にわざわざお金出して来てくれるお客さん、あとはメンバーもスタッフもいるから。そいつらの人生を変えることをまずやろうと。そっちのほうが自分も幸せを感じるんですよ。今いるお客さん、来てくれる近くの人たちの人生を変えたいし、DEZERTが変えてくれた、って思われたい。嘘でもいいんです。そんな気がする、だけでもいい。「人生変わりました!」って言われたら、俺は幸せを感じます。
一一音楽って本来そういうものだと思うんです。いいふうに変わった気がする、実感があるなって思えたなら、それで十分だと思うし。
千秋:考え方次第で幸せになれるっていうことですよね。もちろん俺も毎回のライブがハッピーな気持ちだけで終わるわけじゃないけど。でも昔より、幸せになるのは自分次第だなって思うことが増えてきた。