サバシスター なち×横山健に聞く、PIZZA OF DEATH所属までのストーリー 憧れの場所で叶えるバンドの夢

サバシスターなち×横山健 対談

 2024年元日、新年の幕開けにふさわしいサプライズニュースが届けられた。なち(Vo / Gt)、ごうけ(Dr)、るみなす(Gt)からなる注目の3人組ガールズバンド・サバシスターが、ポニーキャニオンより1stフルアルバム『覚悟を決めろ!』を3月8日(サバの日)にリリースしメジャーデビューを果たすこと。そして、横山健(Hi-STANDARD/Ken Yokoyama)が代表を務めるPIZZA OF DEATHにマネジメント所属するという発表である。

サバシスターから緊急特報!!

 サバシスターは、2022年3月の結成からわずか5カ月で『SUMMER SONIC 2022』への出演を果たすと、全国各地のライブシーンで存在感を拡大。また「ジャージ」や「スケボー泥棒!」といった日常をユニークな視点から切り取った楽曲の歌詞やキャッチーなボーカルがTikTokでも話題を集めるなど幅広い層に浸透中だ。親しみやすいバンドのキャラクターとは裏腹に骨太なロックサウンドを鳴らすライブのインパクトは絶大で、2023年も対バンやイベント・フェスへの出演を重ねるごとにその注目度を高めてきた。

 結成から2年という速さでのメジャーデビューに驚きつつも、やはり気になるのはPIZZA OF DEATH(ピザオブデス)への所属である。日本を代表するパンクロック/メロディックパンクレーベルとサバシスターは、なぜマネジメントという形でタッグを組むことになったのか。なちと横山健に話を聞いた。(編集部)

テレビで観たKen Yokoyamaに受けた衝撃

サバシスターなち(撮影=まくらあさみ)
なち

一一サバシスターのメジャーデビューと、マネジメントがピザオブデスになることが発表されました。ここではそのストーリーを紐解いていきます。なちさんは、公言しているようにKen Yokoyamaがルーツなんですよね。

なち:はい。バンドっていうものをちゃんと認識したのが、テレビで健さんが演奏しているのを見た時で。中2だったんですけど、そこからすごく熱中できるものができたんですね。

一一今考えると、どこに引っかかったんだと思います?

なち:もともとずっと音楽は好きで。保育園の頃から歌を歌うのが好きで、小2からピアノも習ってて。生放送の歌番組とか、バンドもアイドルも関係なく全部録画して見てたんです。で、最初に見たのはたぶん『HEY!HEY!NEO!』(フジテレビ系)だったんですけど、お客さんもちゃんと入ってるライブ、バンドの演奏シーンをテレビで見るのが初めてで、そこにまず衝撃を受けて。「こんな音楽あるんだな!」って思いましたね。

一一健さん、あの時テレビに出た甲斐がありましたね。

横山健(以下、横山):そう。浜田さん(ダウンタウン 浜田雅功)に頭はたかれた甲斐があった(笑)。

一一そこから、バンドをすぐ始めるんですか?

なち:バンドは高校から、親友のたえちゃんって女の子に「ベースをやって」ってお願いして、違うクラスのドラムやってる男の子も誘って。そこで文化祭程度ですけど、コピーしたりしてました。Hump BackとかTETORAとか、THE BLUE HEARTSもやってるバンドでしたね。

一一当時から、バンドで、音楽で生きていこうと思ってました?

なち:いや、進路も違ったし、私以外の二人はそこまで音楽をやりたい人じゃなかったから、そのバンドは続かなくて。だから私は東京に行って、なんとなく音楽に関われることをやれたらいいなぁ、くらいの気持ちでした。

一一チラッと伺いましたけど、実はピザに就職したかったとか。

なち:そうです。

横山:そう、これ話が飛んじゃうけど、バンドとして、ミュージシャンとしてピザと関わることが決まった時、ちょっと残念そうだったの。「ほんとは働きたかったのになぁ。そっちの夢は叶わなかったけど……こっち(バンド)で」なんて言ってて。普通逆っしょ(笑)。

なち:ほんとに働きたかった。音楽をやりたい気持ちは誰にも言えないまま持ってるんだけど、でも先生と進路の話をする時に「音楽やります」とも言えなくて。ただ「好きなことやる以外なくね?」とは思ってたから、パソコンでピザオブデスの募集要項を調べて。Illustratorを使える人は優遇しますって書いてあって、その文章だけを見て、イラレとかグラフィックデザインを学べる専門学校に。「ピザオブデスに行きたいから、その学校に行きます」って高校の先生にも言ってました。進学した専門の先生にも「行きたい音楽事務所に行けないんだったら、別にデザイナーとして働くつもりはないです」って。

一一すごい。ピザ一択(笑)。

なち:やっぱりバンドにハマったきっかけが健さん、っていうこともあるんですけど。あとはバンドとレーベルがすごく結びついてる感じ、それが私の中では特別に思えて。あと何よりロゴが格好いい。あのロゴのもとで働きたい、みたいな気持ちだったから。

横山:Hongolian(デザイナー/BBQ CHICKENSボーカル)にタダでロゴ描かせた甲斐があった(笑)。すごいなぁ。でも嬉しい話だなぁと思いながら今聞いてました。

「そのまんまでいることが一番強い」横山健も一目置く、なちの泰然さ

横山健(撮影=まくらあさみ)
横山健

一一健さんがサバシスターを知るのはいつ頃ですか?

横山:えーと、2022年。最初はJunちゃん(Jun Gray/Ken Yokoyamaベース)から名前を聞いて。

なち:Junさん、ライブにも来てくれましたね。

横山:そう。Junちゃんから「最近サバシスターっていうバンド見てさ、結成したばっかりで、でもサマソニの予選とか勝っちゃってさぁ」みたいな話は聞いてた。で、その年の暮れ、I.S.Oちゃん(ピザオブデス/SATANIC CARNIVALプロデューサー)から「どうしても会わせたい人がいる。健さんのことがすごく好きな、サバシスターのなちっていう子」って言われて。立川でのライブの終演後に初めて会ったよね。

なち:もう、号泣しちゃいましたね。

横山:ずーっと泣いてたもんね。ただ、傲慢な言い方だけど、僕にとってはそういう人ってけっこういるから。その時はまだ「そういう人の中のひとり」って感じだった。なんだけど、音源聴いたらすぐファンになって……そこからは毎晩YouTubeを見漁ることになっちゃった(笑)。

一一健さんに憧れて、会えたら泣いちゃう人って、だいたいパンク、もっと言うとハイスタ直系の音楽をやっていると思うんです。だけどサバシスターはそうじゃない。そこが不思議でもあります。

なち:もちろんパンクも好きだけど、そのジャンルだけを聴き漁ってきたわけじゃないから。最初にコピーしようと思った時も、自分ができるものじゃないなと思ったんですよ。英語で歌って、スリーピースで、すごく速いギターをがっつり弾くって……自分がそこに到達することは最初から考えられなかったから。「あえてやらない」とか「真似したくない」ではなくて、こういうバンドに憧れたうえで、私は自分なりに、自分ができる音楽をやりたいなと思って。自分の手の届くことしかやれてないっていうことですね。

横山:俺思うんだけど、最初から自分の音楽っていうものがあったんじゃないかな。いいバンドはたくさんいて、真似したくなるようなことも、技術的に手が届かないこともあるんだけど。それって自分が伸びていくためのエレメントに過ぎなくて。最初からやりたいこと、自分が音楽やるんだったらこれだろうっていうのがわかってるんだと思う。それくらいの芯の強さは感じた。

一一ライブを見ても思いますけど、すごく幸せそうにギターを弾きますよね。

横山:楽しそうだよね。僕もそれは感じる。

一一対バンにナメられたくないとか、いっちょカマしてやれ、みたいな感覚がまったくない。ちょっと驚きでした。

なち:あぁ、そうですね。人と戦っても無理だから。ずっとスポーツをやってたし、いろんなことを広くやってたけど、どれも伸びたわけじゃないし。競争は得意じゃない。できることをただやる、楽しいことをやるっていうスタンスでバンドをやってますね。

横山:わかった。なちはプーさんなんだよ。

なち:プーさん?

横山:俺ちっちゃい頃からプーさんが大好きで、大人になってプーさんの話を哲学的に分析してる本を読んで、合点がいってしまったの。プーさんというのは、パッと見は呑気で、森の仲間たちからバカなクマって思われてる。だけど本人は他者との競争とか気にしてないし、それを紐解いていくと、削られていない木、UNCARVED BLOCKという哲学的なあり方に行き着くわけですよ。なんの外圧も受けずに、そのまんまでいることが一番強い。俺はそれが魅力的だと思うし、自分もそうありたいと思ってるの。ライブの対バンにナメるもナメられるもないし、作るのに誰の影響を一一もちろんいろいろ受けはするんだけど、それを真に受けることもない。すでに自分っていうものがしっかりあって。一緒だと思う。ほんとに泰然としてる、なちは。

なち:あぁ。なんか……常にそういう気持ちはあるかもしれないです。なんだろう、自分に自信があるのとはまた違うと思うんだけど。自分はこれしかないからこれでいいんだって。開き直ってるわけでもなくて。

横山:人は人、自分は自分、ってことよね。

横山健、サバシスター なち(撮影=まくらあさみ)

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