2023年の『紅白』で交差した過去と現在 全世代に向けた新たな最適解の探求へ

 近年、「歌合戦」の要素がますます希薄になっている『NHK紅白歌合戦』(以下、『紅白』)。昨年末の第74回もそうだった。「トリ」や「大トリ」という表現は番組中でおそらく意図的に使われず、紅組と白組が交互に歌うパターンもすでにかなり崩れている。司会陣にも組分けはなく、ほとんど常に一緒に進行。実質的には今回のテーマ通り「ボーダレス」になっていた。

 また、全体の構成においてもとにかくパフォーマンスを見せることが中心で、特に前半はインタビューなども極力なくして紅組・白組関係なくシームレスに歌がつながれていた印象だ。ドミノやけん玉といった企画もあったものの、歌を聴かせることに特化する傾向がいっそう強まった感じだった。一部のアーティストで取り入れられた、別スタジオのステージにファンを呼び入れ、ファンがペンライトを振ったり、声援を送る様子も含めてパフォーマンスの熱量を伝えるようなライブ感あふれる演出も新鮮だった。そしてそうしたなかで、実に多彩なアーティスト、歌手が登場した。

 一方で、昭和から平成初期くらいまでの時代を飾ったアーティストたちが続々登場した。

 たとえば、テレビ放送70年 特別企画「テレビが届けた名曲たち」では、ポケットビスケッツ&ブラックビスケッツ、薬師丸ひろ子、寺尾聰が出演。またデビュー50周年の節目ということでさだまさし、そして元キャンディーズの伊藤蘭がそれぞれ1970年代にヒットした持ち歌を披露した。海外から出場のクイーン(クイーン+アダム・ランバート)もデビュー50周年。長年にわたる日本での人気を考えれば、こちらもある意味同じ括りに入るだろう。

 そのクイーンのメンバーと『紅白』でコラボしたこともあるYOSHIKIによる「ENDLESS RAIN」と「Rusty Nail」のステージではHYDEや清春、松岡充(SOPHIA)がボーカルとしてサプライズ登場。さらにPATA(X JAPAN)や明希(シド)、難波章浩(Hi-STANDARD)をはじめとしたバンドメンバーによる演奏も大きな話題を呼んだ。

 もう一方で、K-POP勢やZ世代に支持される新しい学校のリーダーズやanoのような、現在の音楽シーンを賑わせるアーティストたちも多数登場した。

 特にK-POPアーティストは出場組数の多さもあり、やはり存在感が際立った。なかでもボーイズグループの出場組数の増加は、性加害問題によって旧ジャニーズ勢の出場がゼロになったことと無関係ではないだろう。しかし、Stray KidsやSEVENTEENなどK-POPアーティストならではの特徴であるパフォーマンス力の高さを遺憾なく見せてくれた。加えて本番直前に初出場が決まったNewJeansら他の出場組も流石のステージで、K-POPの魅力が従来からのファン以外にも多少とも伝わったのではなかろうか。

 初出場のAdoも、今回最もステージを注目されたひとりだ。京都・東本願寺の能舞台からのパフォーマンスは、光と影のコントラストが巧みに用いられ、いつものシルエットのみでの歌唱をより幻想的に見せるとともに「唱」というドラマチックな楽曲に新たな奥行きを生み出すものだった。「Ado」という名前が能の脇役を表す「アド」から来ていることが紹介され、彼女が姿を明かさない理由の一端を想像することもできた。

 Adoのこのステージは、私にはYOASOBIの初出場のそれを思い起こさせるところがあった。2020年の初出場の際、YOASOBIは角川武蔵野ミュージアム内にある本棚劇場からの中継で、巨大な本棚になった高い壁に囲まれながら「夜に駆ける」を披露した。それもまた、今回のAdoと同様、小説をモチーフに楽曲をつくるというYOASOBIの原点とリンクした舞台設定だった。

 そのYOASOBIによる「アイドル」のステージは、今回の『紅白』の白眉だったと言っても過言ではない。むろん昨年最大のヒット曲である同曲、そしてYOASOBIによる歌と演奏の素晴らしさもあるのだが、出場したアイドルたちによるダンスとのコラボという演出が抜群に光っていた。そこには、K-POPかJ-POPかといった区別を超えてアイドルという存在の多様な輝きが端的に表現されていた。ここに旧ジャニーズのアイドルたちがいればという思いもよぎらなくはなかったが、それでも十分にアイドルの持つ本質的な多様性の魅力が感じられた。

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