マネスキン、強靭なフィジカルで生み出す“解放と繋がり” 真価を発揮した来日公演レポート

マネスキン、真価を発揮した来日公演レポ

 まだ全員が20代前半という若さを考えると、驚異的な成長スピードである。12月3日、『RUSH! WORLD TOUR』で約1年4カ月ぶりの来日公演を行なったMåneskin(以下、マネスキン)を有明アリーナで観て感じたことだ。昨年の『SUMMER SONIC 2023』では大ブレイクの勢いそのままに突っ走るようなパフォーマンスでオーディエンスを圧倒していたのに対し、今回はバンドの表現力や音楽的な懐の深さにもどっぷり浸れるライブになっていて、その変化と頼もしさに心底驚かされた。

 今年1月にリリースされた最新作『RUSH!』は、『ユーロビジョン・ソング・コンテスト』優勝(2021年5月)で世界的な注目を浴びて以降初めてのアルバムで、楽曲のキャッチーさやバリエーションに磨きがかかったことで、話題性だけでなく、“バンドの実力”で世界に乗り出す気概を感じさせる充実作だった。そうした心境の変化はおそらく本ツアーにも表れていたのだろう。昨年は日本でライブできることに対して、マネスキン自身も少なからず無邪気に興奮している様子だったが、今回はより堂々たる貫禄やロックスター然としたオーラをまとっての再来日公演だったと思う。結果的に、“ロックバンドの美味しい部分”が凝縮されていながら、決してロックに固執するわけではない4人の柔軟さも露わになったステージだった。

 まず場内が暗転して、赤の巨大な幕に4人のシルエットが映し出されると、トーマス・ラッジ(Gt)のギター、イーサン・トルキオ(Dr)のドラム、ヴィクトリア・デ・アンジェリス(Ba)のベースが次々と折り重なっていき、〈Dance, dance, dance, dance, dance until I die〉とダミアーノ・デイヴィッド(Vo)が歌い始めた直後、ド派手に幕が上がった。1曲目は「DON’T WANNA SLEEP」だ。アイコニックなサングラスをかけて宙吊りのマイクで歌うダミアーノは最高にクールだし、いきなりフルスロットルでぶつかり合う凄まじい音圧の演奏には、バンドの進化が如実に表れていた。トーマスの流麗なギターが牽引するアウトロから、地鳴りのようなヴィクトリアのベースが響いて「GOSSIP」、さらに「ZITTI E BUONI」と間髪入れずに畳み掛けた序盤3曲の流れは、まるでDJが繋いでいるかのようなシームレスな気持ちよさ。考え得る限りで最高のオープニングだ。

ダミアーノ・デイヴィッド

 ポストパンク的な冷ややかなグルーヴと荒れ狂うギターの上で〈Honey, are you coming?〉というキャッチーな合唱が巻き起こった「HONEY (ARE U COMING?)」、ヴィクトリアがアリーナを練り歩いて会場中が盛り上がった「Beggin’」、スポットライトを多用してミドルテンポながらも骨太なスケールを視覚的にも見せつけた「CORALINE」や「VALENTINE」、Arctic Monkeys「Brianstorm」を彷彿とさせるライブバージョンのイントロが冴え渡った「GASOLINE」……など、前半だけでも十分に満足できてしまうようなライブである。

 何より度肝を抜かれたのは、メンバー全員の演奏に華があることだ。一人ひとりの出す音を4つの画面で追い続けたいと思ってしまうほど、歌も演奏も個性的でスキルフル。それでいて、4人の身のこなしは軽やかでどこか気品が漂っており、汗水飛び散るダイナミックさよりも、スタイリッシュで華やかという形容の方がしっくりきてしまうのだからすごい。

トーマス・ラッジ

 まず、トーマスのギタリストとしての存在感が格段に増している。「DON'T WANNA SLEEP」をはじめ各曲で鋭いギターソロを披露しつつ、「IN NOME DEL PADRE」でのタッピング奏法、「OFF MY FACE」でのリズミカルなリフなども気持ちいい。「CORALINE」「VALENTINE」のような長いアウトロも、トーマスのギターあってこそ成り立つものだろう。感情直結型でありながらも多彩なテクニックを持ち合わせたプレイスタイルにはギター愛が滲み出ていて、基本クールに、時よりくしゃっとした表情を浮かべながら繰り出されるリフはどれも型にはまらず独創的。ギタリストに対して厳しい審美眼を持っているリスナーでも、思わず彼の演奏には魅了されてしまうのではないだろうか。

イーサン・トルキオ

 それはおそらくイーサンのドラムも同じで、タイトで正確無比なビートも繰り出せるが、モーションの迫力が大きく、どんな曲でもアグレッシブさが全く失われない。強引に例えるなら、チャド・スミス(Red Hot Chili Peppers)とマット・ヘルダース(Arctic Monkeys)のいいとこ取りのような心地よさで、イーサンのビートがマネスキンのライブの推進力になっているのは間違いない。また、歌やギターに聴き惚れるようなパートでも、身体を揺らしながら弾くヴィクトリアのベースがしっかり主張し続けていて、グルーヴが途切れる瞬間がほとんどない。その意味ではファンク、もっと言えばダンスミュージック的な快楽にも近い。デビュー前の彼らはよくローマでストリートライブをしていたそうで、道行く人たちをどうにか引き留めてライブに目を向けさせるべく努力していたというが(※1)、そのスタンスは今も変わっていないのだろう。どの瞬間を切り取られてもいいと言わんばかりに、絶えずリズム隊による強靭なグルーヴが鳴り響いており、その分、ステージ中央でトーマスのギターとぶつかり合う瞬間には強烈なカタルシスが生まれる。本当にスター性溢れるプレイヤーが集ったバンドだ。

ヴィクトリア・デ・アンジェリス

 思えば、マネスキンは同期の類を流すことは一切なく、全て生演奏のみでライブを構成している。アリーナクラスのライブならVJへのこだわりも多々見られる昨今だが、そうした派手な映像演出もない(メンバーの姿を映すLEDと照明演出のみ)。つまり、どこまで行っても徹底的に“フィジカル”を貫くライブであり、この規模感でそれができるバンドは、今世界を見渡してもそうそういないだろう。

 そんなステージを観ながら感じたのは、かつてロックが体現していたダイナミズムをヒップホップやダンスミュージックが代弁するようになった昨今の潮流を逆手に取り、むしろフィジカルな生演奏によって、ヒップホップやダンスミュージック的な快感を提示しているのではないかということ。すなわち、マネスキンはロックであること以上に、身体表現を通した自己解放を目指しているのではないかということだ。そういったマインドで共鳴した音楽は全てバンドに取り込めるということでもあり、彼らのライブにファンクやヒップホップ、DJ的なエディット性などを感じるのも、そうしたスタンスゆえなのだろう。ロック的な刺激を持つ楽曲がDTMによってジャンルレスに生み出され、バーチャル空間に溢れ返るようになった今の時代、それがフィジカルなフィールドで鳴る音楽とどうコネクトして広がっていくのかという点でも、マネスキンのライブはさらに注目されていくに違いない。

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